研究実績の概要 |
サイトカイン・ストーム型急性脳症の患者から採取された血液検体、髄液検体についてのサイトカインの網羅的解析を行った。研究開始後に発症した症例の臨床データおよび検体蓄積を継続しつつ、これらの症例についても解析を行った。これまでに解析した結果の一部を学術集会および学術論文にも発表した。今年度の補助金は、サイトカイン測定の試薬の購入費、患者検体と臨床データの蓄積に関わる費用、および学術的な発表の費用に充てられた。 IL-1β, IL-1Ra, IL-6, IL-10, TNF-α, MIP-1aなど27項目のサイトカインのMultiplexによる網羅的解析と、分単位で記録された臨床データとの照合により、いくつかの重要な知見を得られた。1)サイトカインストーム型急性脳症においては、神経症状出現から72時間の経過中に、大部分の炎症性サイトカインおよび抗炎症性サイトカインが劇的に変化する。 2)サイトカインストーム型急性脳症の代表的病型である急性ショック脳症症候群の神経症状出現後24時間以内の血液中で、IL-1β, TNF-α, IFN-γなどの炎症性サイトカインに加えて、IL-10のような抗炎症性サイトカインも、コントロール群と比べて著明に高値である。3)著しい高サイトカイン血症を認めた症例でも、後遺症なく経過した例もある。そのような症例で、低(平)体温療法、ステロイドパルス療法、ECMOなどの集中治療が早期に導入されていたことからは、早期に抗炎症治療や脳保護治療を行うことで、サイトカイン型急性脳症の予後を改善できる可能性がある。 上記のように、患者検体および臨床データ蓄積の系が確立するとともに、急性脳症の病態解明や治療戦略確立の一端となる成果が得られた。
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