研究実績の概要 |
乳児期発症の抗NMDAR脳炎の対象患者にエクソーム解析を行い、IRAK4遺伝子の複合ヘテロ接合性変異を同定した。まず、本患者末梢血でのIRAK4のmRNA発現が対照群の約2/3程度に減少していることを証明した。次に患者末梢血でIRAK4蛋白がT細胞、B細胞、単球のいずれにおいても欠損していることを証明した。 患者由来SV-40不死化線維芽細胞を樹立し、それを用いて、種々のTLRリガンドによる刺激を行い、反応性に産生されるIL-6を検討した。本症例では、pICとTNF-α刺激以外のTLRリガンドではIL-6の産生障害を認め、本症例の細胞ではIRAK4を経由したIL-6の産生能が阻害されていることを証明した。 次にCRISPR/Cas9によりIRAK4を欠損させてHEK293T細胞にプラスミドを導入し、変異allelesの蛋白発現をウエスタンブロットで検討した。本症例の変異であるR12P, Y10CfsX変異体に加えて、既報の変異であるR12C, Q293Xでは、いずれも蛋白発現が障害されていた。続いてHEK293T細胞にプラスミドを導入し、IL-18刺激によるNFkB転写活性をレポーターアッセイで検討し、野生型に比べて本症例の変異は両方ともNFkBが著しく阻害されることを証明した。 また、IRAK4欠損症患者における抗NMDAR抗体の網羅的測定を行う目的でIRAK4欠損症患者、MyD88欠損症患者の血清中抗NMDAR抗体の測定を行ったがいずれも陰性という結果であった。並行して若年発症(具体的には5歳未満発症)の抗NMDAR脳炎患者におけるIRAK4やTLRシグナル伝達に関与する遺伝子群を中心にエクソーム解析を用いた網羅的解析を行ったが、共通した有意な候補遺伝子の同定には至らなかった。これらの結果に関しては、J Clin Immunolに投稿し掲載ずみである。
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