研究課題
大血管系は、左右対称に咽頭弓を貫く走行で、次々に発生する6対の咽頭弓動脈を原基として発生する。6対の咽頭弓動脈のうち、第I、II咽頭弓動脈は胎生10.5日に消失し、右側VI咽頭弓動脈と右側背側大動脈は胎生11.5日に消失して左大動脈弓が形成される。本年度は、胎生10.5日のICRマウス胎仔の左側と右側の全咽頭弓を含む組織を2腹分(体節35-36以上ができている胎仔計23匹)を試料としてRNA-seq解析を行った。左右の咽頭弓組織試料を冷却しつつ顕微鏡下可及的速やかに採取し、それぞれRNA later液に浸し、-20℃に保存した。これらのプール試料からトータルRNAを抽出し、RNA-seq解析用の2検体とした。RNA-seqの結果の一部であるが、動脈管と肺動脈分枝部が形成される左側といずれ消失する右側咽頭弓組織の遺伝子発現を比較すると、2倍以上発現量が多い遺伝子は1024、逆に2倍以上少ないものは1204あった。右側咽頭弓に比べて左側咽頭弓で4倍以上発現量の多い遺伝子について、遺伝子オントロジー解析(生物学的プロセス)を実施したところ、シグナルトランスダクションが最も高い割合(8%)を占めた。以下、イオントランスポート、免疫システムプロセス、精子形成、細胞表面の受容体によるシグナル伝達、炎症系反応に関する遺伝子発現が高かった。シグナルトランスダクションに関する遺伝子の発現の違いが最も高かったことから、胎仔の左右の咽頭弓はすでにそれぞれのシグナルトランスダクションシステムを発達させていること示されたと考えている。現在、これらの遺伝子の発現のパスウェイ解析などを進めている。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、胎生10.5日のマウス胎仔の左側と右側の全咽頭弓についてRNA-seq解析を行い、結果を得ることができた。動脈管と肺動脈分枝部が形成される左側といずれ消失する右側咽頭弓組織では、発現量に2倍以上の違いがある遺伝子が2000余見つかった。シグナルトランスダクションに関する違いが最も多く、加えて細胞表面の受容体によるシグナル伝達の違いが多かったことから、胎生10.5日における、左右の発達の違いは、シグナルトランスダクションに関する遺伝子発現の違いという段階であることが推定された。このように本研究の基盤となる情報を得られたことから、これを基に今後の展開を考案できると考えている。よって、初年度としては概ね順調に進行していると考えている。
CR法によりmRNAの発現量を確認する。これにより、絞り込んだ複数の遺伝子のタンパク質レベルの発現を、マウス胎仔(胎生10, 10.5, 11, 11.5, 12日)切片などを用いて、免疫染色法により発現分布を検討する。この際、適当な抗体がない場合は、発現遺伝子をクローニングし、抗原タンパク質を調製し、ラットまたは家兎を用いて抗体を調製する。