研究課題/領域番号 |
18K15735
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
田中 泰圭 福岡大学, てんかん分子病態研究所, ポスト・ドクター (50714466)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Dravet症候群 / てんかん / SCN1A / Nav1.1 / iPS細胞 / 脳オルガノイド / 疾患モデル / GABA作動性神経細胞 |
研究実績の概要 |
Dravet症候群(DS)は、原因となる遺伝子異常が明確となった数少ない乳児期発症難治性てんかんの一つであり、発作重積等により約2割の患者が若年死亡する。DS患者では、主にSCN1A遺伝子の異常が同定され、遺伝子の変異同定による遺伝子診断は可能だが、詳細な分子病態は未だ不明な点が多く、効果的な治療法が未確立である。 DSモデルマウスを用いた研究より、発達期の前脳GABA性介在性神経細胞におけるNav1.1のハプロ不全が報告された。これにより中枢神経におけるGABA作動性神経細胞を含む神経ネットワークに異常が生じ、脳の抑制性の機能不全により神経細胞の過剰興奮が誘起され、重篤なてんかん発作を発病すると考えられている。しかしながら、モデル動物とヒト脳における神経細胞基盤の違いは周知の通りであり、必ずしも患者の複雑な表現系が推定される病態を反映しているとは言い難い。しかしながら、DSの病態・治療研究には患者の脳組織を利用することはできず、患者由来神経細胞を用いたヒト脳神経のex vivo疾患モデルが必要不可欠である。 そこで本研究は、DS患者由来iPS細胞より、病態への関与が想定される終脳領域の脳オルガノイドを作製する。DS患者由来終脳オルガノイドおよび次世代微小電極マイクロアレイ機(マエストロ)を用いて ① 終脳オルガノイドDS病態モデルの作成 ② 細胞分子レベルでの病態形成機構の解明 ③ 薬剤スクリーニングへの応用 を目指す。ヒト終脳オルガノイドの神経組織を用いて疾患関連表現型の妥当性を深めることで、真のてんかんの病態に基づく病態関連変化を示す神経細胞を同定する。認可医薬品の薬剤スクリーニングへの応用が可能な病態モデルを作成することで、革新的な治療法や予防法の開発につなげることを目指し、創薬基盤研究の発展に寄与する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
健常者由来iPS細胞(健常コントロール)、DS患者由来iPS細胞(DS病態モデル)及び患者由来人工健常iPS細胞(SCN1A遺伝子異常を修復したDS病態モデルとisogenicな健常コントロール)の3ラインのiPS細胞を用いて、終脳オルガノイド誘導法によるヒト終脳領域特異的な脳オルガノイドの作製に成功している。また、作製した脳オルガノイドにおける遺伝子発現パターン解析より、終脳領域に属する終脳オルガノイドであることを確認した。加えて、マエストロを用いて、健常者由来終脳オルガノイドの自発的な神経活動発火および神経ネットワークバーストの測定に成功しており、今後、DS病態モデルについても同様の解析が実施可能である。
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今後の研究の推進方策 |
作製した脳オルガノイドを用いて、抑制性GABA系および興奮性グルタミン酸系神経細胞を対象に細胞レベルで病態への関与を解析するために、免疫染色によりNaV1.1の発現パターンの検討と共に、他のNaVチャネルなどの関連タンパク質についても発現パターンを確認する。さらに、SCN1Aを始め、種々の目的遺伝子発現は定量的PCR等により評価する。疾患関連遺伝子発現の変化を同定するため、網羅的遺伝子発現解析アレイを行う。電流固定法による活動電位発生の測定と評価、電位固定法によるNa+電流、自発発火、シナプス電流等の測定についても検討する。また、これまでよりも効率的に脳オルガノイドを作製するために、フローティング培養法を用いた脳オルガノイド誘導法を検討中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでよりも効率的に脳オルガノイドを作製するために、フローティング培養法を用いた脳オルガノイド誘導法を試みる予定である。フローティング培養法のためにインキュベーター内で使用可能な震蘯培養器一式ならびに培養用のフラスコ類の購入費用として、前年度の研究費を今年度に繰り越した。 今年度に繰り越した研究費は、フローティング培養法のためにインキュベーター内で使用可能な震蘯培養器一式(OHAUS社製のオービタルシェーカー、ユニバーサルプラットフォーム、PVC125mL 三角フラスコクランプおよび、三角フラスコクランプおよび専用プラットフォーム)ならびに培養用のフラスコ類の購入費用として使用する。
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