本年度は、BETがエピブラスト細胞系譜の形成に果たす役割について、より詳細な解析を行った。BETの阻害剤を用いて胚盤胞胚を培養すると、NANOG以外にも、エピブラスト系譜に必要なSOX2やOTX2のタンパク質発現が低下することを明らかにした。さらに、16細胞期胚を、BET阻害剤を用いて桑実胚期まで培養した場合も、同様にNANOG、SOX2、OTX2のタンパク質発現が消失した。これらから、BETは内部細胞塊形成の早い段階から、エピブラスト細胞系譜の特異化と維持の両方に機能していることが分かった。 次に、前年度までに、着床前胚のエピブラスト細胞系譜の形成には、Brd4以外のBETも重複して働いている可能性が示唆されていた。そこで、胚盤胞胚を用いたマイクロアレイの結果をもとに、Brd4の次に発現が高いBrd2に着目した。Brd4とBrd2は同じ17番染色体上の近傍に位置するため、マウスの交配によってBrd4/Brd2ダブルホモ変異胚を得られなかった。そこで、Brd2ヘテロマウスを交配させて得られた受精卵に、CRISPR-Cas9システムによるゲノム編集技術を用いてBrd4をノックアウトし、その後、受精卵を桑実胚期まで培養した。その結果、Brd4ホモ変異胚やBrd2ホモ変異胚では、NANOGタンパク質の発現に影響が見られなかった一方で、Brd4/Brd2ダブルホモ変異胚ではNANOGの発現が消失した。さらに、Brd4ホモかつBrd2ヘテロ変異胚でも、NANOGの発現が低下する傾向にあったことから、Brd4欠損下において、Brd2のコピー数がエピブラスト細胞系譜の特異化に影響を及ぼすことが分かった。これらの結果から、着床前胚のエピブラスト細胞系譜の特異化には、Brd4が中心的な役割を、Brd2が相補的な役割を担っていることが明らかになった。
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