これまでに早期母仔分離(MS)によるIBSモデルは、鬱様行動と内臓知覚過敏を呈すること、これがPGI2受容体(IP)作動薬によりいずれも消失することを明らかにしてきた。さらにそのメカニズムとして1-methylnicotinamide(MNA)が関与している可能性を見出した。当初は、IP作動薬による抗炎症作用がIBS様症状の改善に寄与していると仮説を立てていたが、血清・腸管の炎症性サイトカインの変化はいずれの群でも認めなかった。 そこで、2020年度は、corticotrophin releasing factor (CRF)に着目し、以下の結果を得られた。(1) MSモデルでは血清CRFが上昇するが、IP作動薬投与により低下すること、(2) 健常ラットへのMNA投与により、血清CRFが上昇すること、(3) 対照群、MS群、IP作動薬投与のMS群ではいずれも糞便中の腸内細菌叢が変化していること、(4) IP作動薬投与MS群の糞便をMS群に移植すると内臓知覚過敏・鬱様行動が改善すること、(5)IP作動薬投与MS群の糞便をMS群に移植すると血清CRFが低下すること、の5つを明らかにした。 これまでの文献などを参考に結果をまとめると、MSによるストレスは、IP作動薬投与により、腸内細菌の変化の是正→血清1-MNA濃度の上昇の抑制→血清CRFの上昇の抑制を経て、鬱様行動と内臓知覚過敏の消失にいたった可能性が示唆された。
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