研究実績の概要 |
潰瘍性大腸炎の治療のなかで最も使われるものがメサラジン製剤であるが、数パーセントの患者で発熱や下痢の悪化といった不耐症状を呈し、難治化する。その遺伝的背景を検討するためGWASを行い、多施設共同研究で得られたゲノムデータおよび東北大学でのデータをそれぞれDiscoveryとReplicationとして使用した。これらのメタ解析でP<5e-7を満たしたものは下痢増悪で2SNPs、発熱で4SNPs、発熱かつ下痢増悪で3SNPsであった。また、P<5e-8を満たしたものは「発熱かつ下痢増悪」の副作用における6番染色体のrs144384547に代表される1領域のみであった(P=7.32e-9)。同領域はG蛋白質シグナル伝達17(regulator of G-protein signaling 17;RGS17)の上流に存在し、long non-coding RNAであるRP11-306013.1の近傍に存在していた。同SNPを保有している症例の22.0%、保有していない症例の2.34%の症例で不耐症状の出現を認めていた。単一SNPでの副作用の予測精度は不十分と考えられたことから、GWASでP≦3e-4以下を示した610 SNPで構築されたPRSを構築したところ、最も強い相関を示し、唯一有意な相関を示した (pR2=0.036,P=2.5e-02)。PRSのカットオフ値を78.1210点とした場合の感度は61.5%、特異度は71.7%であり、ROC曲線下面積(area under the curve;AUC)は0.67であった。臨床的因子によるモデルと遺伝的因子によるモデルを組み合わせた複合モデルでは、PRSによるモデル、臨床的因子のみのモデル(AUC=0.78)のいずれよりも高いAUCを示した(AUC=0.89)。また、複合モデルでの感度は71.4%,、特異度は90.8%,と、いずれもPRS単体よりも優れた予測精度を示した。
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