本研究は、健常者からの便細菌叢移植で炎症性腸疾患患者の粘膜定着細菌叢がどのように経時的に変化するかを明らかにすることを目的としている。炎症性腸疾患患者に対して、糞便移植を10人に施行し、ドナー、レシピエントそれぞれの便かつ内視鏡下の生検で得られた直腸粘膜付着の細菌叢の解析する。便細菌叢移植で寛解群と、非寛解群で比較し、寛解群に特異的に変化した粘膜定着細菌叢を同定する。 結果は、全例副作用なく安全に施行できた。潰瘍性大腸炎患者3人が寛解した。効果のなかった2患者がステロイド依存であったことから、ステロイドの長期投与が細菌定着に影響を与えていると考えた。ステロイド投与マウスを作成したところ、Muc2発現が低下し、さらに便中のムチン量が低下していた。ムチン低下が細菌叢定着を低下させる可能性を考えた。そこでステロイド内服マウスにムチンを補充して便細菌叢移植を行うと、細菌叢がドナー便に近似し、ムチンを補充しない例と異なる便細菌叢を呈した。これは、ムチンを補充すると便細菌叢移植の効果が改善する可能性を示唆する。次に、大腸炎に対するムチン置換の効果を調べる目的で、病原性E.faecium株(IB44a)をIL10KOマウスにさせて大腸炎モデルを作成した。これらのマウスに内因性及び外因性ムチンを摂取させ便移植を行うと、内因性ムチンを投与したマウスの便中のE.faecium数が減少し、大腸炎の病理スコアが低下した。さらにステロイド投与マウスに内因性ムチンを投与すると、投与していないマウスよりも大腸粘膜に付着するE.faeciumが抑制された。最後にDSS腸炎モデルマウスを用いた実験でも、内因性ムチンは大腸炎の増悪を防ぎ、マウスの体重減少を抑止した。以上より大腸ムチンは腸内細菌叢の構成と大腸炎を制御しステロイド投与はこの大腸ムチンを減少させ腸内細菌叢を変化させていることが分かった。
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