本研究では、運動によって惹起される肝由来のligandに着目し、ヒトNAFLDおよび動物モデルの肝組織の網羅的解析結果を元に新規へパトカインを探索し、更に肝臓における機能解析によってNAFLD治療への応用の可能性を検討した。加えて血中におけるヘパトカインの動態を解析し、NAFLDにおける運動療法の実施や効果判定などを『可視化』できるバイオマーカーの確立を目的とした。運動/非運動マウス肝を次世代シーケンサーで解析し、運動マウス肝で上昇している分泌タンパクをコードするmRNAの中から、Heat shock protein(HSP)の一種であるHSC70 (heat shock cognate 70)を検討した。HSC70はHSP70ファミリーに属し、HSP70と結合し相同的に分子シャペロンとして機能するが、生活習慣病やNAFLDとの関連は解明されていない。本研究ではヒトNAFLD血清におけるHSC70と運動療法効果(骨格筋量、骨格筋脂肪量、肝関連マーカー)との関連を検討し、またin vitroで培養ヒト肝星細胞をTGF-β刺激で活性化し、HSC70の添加を行い、肝星細胞の活性化及びTGF-βシグナリングに与える影響を検討した。ヒトNAFLDでの検討の結果、血中のHSC70濃度は腹部CTで計測した腰部骨格筋面積と有意な正の相関を呈し、また骨格筋脂肪と有意な負の相関を呈した。また運動療法における筋量増加例では血中HSC70は有意に増加した。またHSC70増加例では肝線維化マーカーや肝脂肪化の改善を認めた。培養肝星細胞の検討で、HSC70はTGF-βシグナリングを有意に抑制し、col1aたActa2などコラーゲン産生関連遺伝子の発現を抑制した。以上の結果からHSC70は運動惹起性に肝で発現し、分泌タンパクとしてヒトNAFLDの肝線維化を含む病態改善に寄与していることが示唆された。
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