本研究は、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)起因性小腸傷害におけるERストレスの役割を、オートファジーおよびアポトーシスとの関連を中心に詳細に検討し、ERストレスの人為的制御(ERストレスのプレコンディショニング)によるNSAIDs起因性小腸潰瘍治療の可能性を詳細に検討することである。これまでに、ERストレスインデューサー、Thapsigargin(TG)による前処理が、インドメタシン(IM)による小腸細胞の傷害を抑制する事を見出してきた。しかし、TG等の汎用型ストレスインデューサーは、薬物としての応用を考えた場合には、十分ではない。そこで、使用しやすいERストレスインデューサーを探索して、解糖系阻害薬が効果的であることを見出した。この物質は、ガン治療にも応用されようとしている物質であり、ヒトにも応用可能と考えている。本物質をラット小腸細胞IEC6細胞に24時間前処理を行うと、濃度依存的にIMによる細胞傷害が抑制された。本物質自体による毒性は、殆ど観察されず、高い忍容性をもってIMによる傷害を抑制する事が観察された。これまでに、この物質が、AMPKの活性化を介して、IMによる細胞傷害を抑制していることが分かっていたが、直接、オートファジーの効果を検討するため、オートファジー誘導物質、mTOR阻害薬、ラパマイシンの効果を検討した。ラパマイシンは、濃度依存的にmTORを阻害し、且つ、オートファジーの亢進も観察された。同様に、IMによる細胞傷害からの保護作用が観察された。このことから、本物質がオートファジーの活性化を介して、IMによる傷害から、細胞を保護していることがさらに裏付けされた。動物実験においても同様の結果が見られ、現在、論文の準備中である。これらの事より、オートファジーの活性化を促す薬物は、NSAIDs誘因性小腸傷害の保護・治療薬として利用できることが示唆された。
|