研究課題/領域番号 |
18K15766
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
宮川 恒一郎 産業医科大学, 医学部, 助教 (20566434)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 非アルコール性脂肪性肝疾患 / オートファジー / SERCA |
研究実績の概要 |
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD) の肝においては、ユビキチン・プロテアソーム系やオートファジー・ライソゾーム系という細胞内蛋白分解システムが抑制されている。これにより細胞内には異常蛋白が蓄積し、NAFLDの病態進展に寄与すると考えられている。現在までに我々は、遊離脂肪酸のオートファジーに及ぼす影響を解析した。高脂肪食マウスの肝臓において、オートファゴソーム蓄積が認められたが、オートファジーの選択的基質であるp62やユビキチンも増加しており、高脂肪食マウスの肝臓においては、オートファジーの後期段階が障害されていることが示唆された。そこで、詳細にautophagic fluxを解析するため、培養肝細胞を不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸それぞれで処理し、autophagic fluxに与える影響を検討したところ、不飽和脂肪酸と異なり、飽和脂肪酸暴露において高脂肪食マウスと同様に肝細胞内にオートファゴソームが蓄積していた。そこで、オートファゴソームの合成能と分解能を評価したところ、オートファゴソームの合成能は飽和脂肪酸暴露により変化しないものの、オートファジーの後期段階が障害されていた。オートファジーの後期段階をさらに解析したところ、飽和脂肪酸暴露において、オートファゴソームとライソゾームの融合が抑制されていた。また、この障害は小胞体ストレスと相関しており、飽和脂肪酸による小胞体ホメオスタシスの破綻がオートファジー機能を抑制することがわかった。しかし、どのような機序で飽和脂肪酸が惹起した小胞体ストレスがautophagic fluxを障害するかについては不明であり、今後さらなる検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小胞体ストレスは様々な細胞内外からの刺激によって、小胞体内に異常タンパク質が蓄積することで引き起こされる。小胞体ストレス誘導剤としてはtunicamycin、puromycin、thapsigariginなどがある。Tunicamycin は糖鎖修飾を、puromycinは翻訳のプロセスを阻害することでタンパク質合成を阻害し、小胞体内に異常タンパク質の蓄積を惹起する。Thapsigarginは小胞体膜のCa2+-ATPase (SERCA) の阻害剤であり、小胞体へのカルシウムイオンの取り込みを阻害すると同時に、小胞体から細胞質へのカルシウム漏出を引き起こし、小胞体ストレスを惹起する。これら3つの薬剤が肝細胞のオートファジーに及ぼす影響を検討したところ、tunicamycinとpuromycinはオートファゴソームの合成を促進した。一方、thapsigarginはオートファゴソームの合成は促進せず、オートファゴソームとライソゾームの融合を阻害し、オートファジーに対して飽和脂肪酸と同様の影響を及ぼした。そこで、飽和脂肪酸暴露時の小胞体内カルシウム濃度を測定したところ、有意な低下を認めた。一方で不飽和脂肪酸暴露は小胞体内カルシウム濃度に影響を及ぼさなかった。これらのことから、飽和脂肪酸は肝細胞において小胞体のカルシウムホメオスタシスを変化させ、小胞体ストレスの誘導、オートファゴソームとライソゾームの融合阻害を惹起している可能性が示唆された。また、飽和脂肪酸暴露によって引き起こされた小胞体ストレスの誘導とオートファジーの障害は、不飽和脂肪酸を投与することでレスキューされ、同時に小胞体内のカルシウム濃度低下も改善することがわかった。加えて、このレスキュー効果はSERCAを阻害することでキャンセルされることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
SERCA活性化薬が飽和脂肪酸による脂肪毒性を軽減するのではないかと考え、現在検討を進めている。SERCA活性化薬には、gingerol、CDN1163、エラグ酸などがある。これらの薬剤が飽和脂肪酸暴露による小胞体ストレス、オートファジー障害、細胞死にあたえる影響について検討する。また、その際の小胞体内カルシウム濃度についても評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は2018年度以前より行っていた研究であり、当該年度は既存の物品を使用した。また、新型コロナウイルス感染の影響で実験の遂行に支障をきたしたため、2020年度は支出実績がなかった。未使用額は次年度に繰り越し、次年度の実験計画に使用する。
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