研究課題/領域番号 |
18K15773
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
姫野 美沙緒 東京大学, 定量生命科学研究所, 特任研究員 (80706416)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | iPS細胞 / 類洞内皮細胞 / 肝星細胞 / B型肝炎ウイルス / 三次元培養 |
研究実績の概要 |
本研究ではB型肝炎ウイルス(HBV)持続感染モデルの開発と非実質細胞の機能解析及び疾患バイオマーカーの探索を目的としている。これまでにiPS細胞由来の肝前駆細胞及び、そこから分離したCPM陽性肝前駆細胞を用いたHBV複製モデルに最適な細胞外マトリクスを同定した。これらの細胞にHBV感染を行い、感染14日後の培養上清中HBs抗原量及び細胞中のHBV cccDNA量を測定し、HBV感染を認めた。 またHBV受容体であるNTCPの発現量を解析したところ、肝がん細胞株ではその発現が見られないが、iPS由来肝前駆細胞では2~3割の細胞でNTCPが発現していることがわかった。NTCPの局在に影響すると考えられるiPS由来肝星細胞をiPS由来肝前駆細胞に重層する共培養を行なったが、今回の培養条件ではHBV複製レベルに差はみられなかった。 これまでに樹立したiPS細胞から肝星細胞を分化誘導する手法は一部の細胞で活性化がみられた。分化誘導方法の改良を行い、静止期星細胞の入手が可能となった。この静止期星細胞とNTCP強制発現肝がん細胞株との三次元培養により、星細胞がHBV複製を亢進するという予備的な結果を得た。 iPS由来肝前駆細胞にIFN阻害剤、IFN応答遺伝子阻害剤を加えてHBV複製レベルへの影響を調べたが、現在までのところ顕著な影響はみられていない。 また、iPS細胞由来肝前駆細胞単独では培養の方法によっては三次元培養が困難であることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
iPS細胞由来肝前駆細胞にHBV感染が認められ、またその最適な培養条件を同定した。これにより本研究の目的の一つであるiPS細胞由来肝細胞を用いたHBV感染モデルの構築が行えた。一方で共培養、三次元培養についてはさらに添加因子や培養器の検討が必要であることがわかった。 HBV受容体であるNTCPの細胞表面での発現は認められたが、さらにその局在の検討など達成されていない点がある。 HBV複製に細胞の自然免疫が関与するとの報告があるが、現在までの結果でIFN阻害剤等の影響はみられていない。この点については、感染レベルなどの検討がさらに必要と考えられる。 他方で、これまでに得られていなかった静止期星細胞の調製方法樹立により、静止期星細胞と肝細胞の共培養系を用いたHBV感染に成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
新規に樹立した静止期星細胞を用いた肝組織の三次元培養法について培養液、培養器などを検討することで最適条件を見出す。 作製した肝組織でのHBV複製レベル及び肝細胞でのHBV複製関連転写因子やHBV受容体の発現レベル解析を行い、肝組織の有効性について検討する。さらに肝組織での星細胞の活性化をコラーゲン産生や活性化マーカーの発現を指標に測定する。HBV感染時に細胞で働く自然免疫応答について、感染レベルなども考慮し検討する。さらにHBV感染時の肝障害についてはALT、ASTの測定や組織学的評価にて観察を行う。 完成した三次元培養肝組織を用いて、培養上清や肝組織をサンプルとしてプロテオーム、メタボロミクスなどの多変量解析を行い、疾患の早期診断を可能にするバイオマーカーの探索を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定していた国際学会への参加を研究の進捗状況も鑑み、行わなかったため当該年度使用額が減少した。 今後、肝組織の三次元培養を行うにあたり、研究費用が予定よりも増加すると考えられる。具体的には三次元培養用の培養器を検討するため数種類の培養器を購入する。また大量にiPS細胞由来の肝前駆細胞、肝星細胞、類洞内皮細胞を分化誘導するため培地中に添加するサイトカイン等を購入する。 今年度も国際学会への参加は見送り物品の購入に充てる。可能であれば国内学会への参加を予定する。
|