膵癌による死亡者数は増加しており、2015年の膵癌による死亡者数は3万人を超え、日本の癌死亡数第4位となっている。早期発見が困難で、罹患率と死亡者数がほぼ同数の難治癌である。早期診断・早期治療介入が予後の向上に結び付くため、リスクの高い集団をひろいあげることが重要である。膵癌のリスク因子として慢性膵炎が挙げられる。慢性膵炎は膵臓に線維化、細胞浸潤、実質の脱落などの慢性変化が生じ、進行するにつれて膵外分泌・内分泌機能が低下する病態である。慢性膵炎は早期診断の方法が確立されておらず、診断時には不可逆性の進行例であることが多い。そこで本邦では、2009年に改訂された「慢性膵炎臨床診断基準2009」では世界に先駆けて「早期慢性膵炎」が提唱された。非可逆性と考えられてきた慢性膵炎を早期発見し、早期治療介入を行うことで、予後の改善が期待される。 慢性膵炎の原因はアルコール性が最も多いが、女性では約半数が特発性とその機序は未だ不明な点も多い。慢性膵炎では口腔内常在菌・腸内細菌叢が変化し、小腸内細菌過剰繁殖症(small intestinal bacterial overgrowth : SIBO)が起こることが報告されており、腸内細菌と病態との関連が示唆されている。 本研究の目的は早期慢性膵炎・慢性膵炎の腸内細菌叢の変化を明らかにすること、慢性膵炎治療薬として用いられている膵消化酵素薬や整腸剤・抗生剤の投与による腸内細菌叢・病状の変化を検討すること、腸内細菌叢が膵線維化に関わる膵筋線維芽細胞に及ぼす影響を検討することである 本研究で健常人と慢性膵炎患者の便中DNAを抽出し、両群を比較したが、腸内細菌叢は両者で異なる可能性が示唆された。特に特徴的な細菌を明らかにすることが、慢性膵炎の原因を明らかにしたり、治療方開発につながる可能性がある。
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