BALB/cマウスの盲腸にCT26細胞を1x10^5個の同所移植を行い、DSS腸炎群(1.5%デキストラン硫酸)とコントロール群の比較を行った。DSS腸炎群では大腸長の有意な短縮と組織学的な炎症が確認され、既報よりも低い濃度のDSS投与であっても目的である炎症による腫瘍微小環境による腫瘍の変化の評価を行うことができた。また、組織学的にはマクロファージの浸潤が著明に増加していた。腫瘍重量、腫瘍体積は両群間で差は認められなかったが、DSS腸炎群でのみリンパ節転移を認め、有意差を持って死亡率が高かった。Ki-67免疫染色にてDSS腸炎群において陽性細胞が増加している傾向が認められ、腫瘍増殖能が亢進している可能性が考えられたが、陽性細胞数の割合は両群で統計学的有意差は認められなかった。 DSS腸炎群の腫瘍ではコントロール群では認められない、腫瘍細胞の紡錘形細胞への変化が認められた。間葉系マーカーであるα-SMAおよびフィブロネクチン(FN)陽性細胞の増生が免疫染色にて確認された。FN産生細胞は主にCAF (cancer associated fibroblast)であったが、癌細胞やTAM (tumor-associated macrophage)にも発現していた。PCRではvimentin、Western blotttingではFNとvimentinの発現量がDSS腸炎群の腫瘍において多く確認され、上皮間葉転換(EMT)が関与している可能性が示唆された。PCRではTGF-β1がDSS腸炎群において上昇しており、これまでの既報と併せて考察するとTGF-β1がEMTに関与していることが推察された。 以上の結果から、DSS腸炎により腫瘍微小環境においてマクロファージの浸潤の増加によりTGF-β1が増加し、腫瘍部においてEMTを促進することにより癌の悪性度が上昇する可能性が示唆された。
|