研究課題/領域番号 |
18K15788
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
菅野 伸一 札幌医科大学, 医学部, 研究員 (20782254)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Fusobacterium / 大腸癌 / MSI |
研究実績の概要 |
近年、網羅的遺伝子解析技術の進歩によりヒトの体内に膨大に存在するmicrobiomeと各疾患の関連についての研究が急速に発展している。ヒトの腸管内には100兆にものぼる微生物が存在し、腸内細菌叢を形成している。この細菌叢の異常が炎症のみならず、代謝、免疫そして発癌にも重要な役割を担っていることが明らかになってきており注目を集めている。Fusobacterium属はヒトの口腔や消化管の腸内常在細菌群の一つであり、これまでの研究では大腸癌でFusobacteriumが存在することは現象であり、単に腫瘍発生のプロセスで引きおこされる局所の変化に過ぎないと考えられていた。しかしながら最近の研究ではFusobacteriumのような正常腸内常在微生物の一部は大腸腫瘍発生に関与する可能性があるという新たな知見が報告され、注目されている。 そこで我々はFusobacteriumとMSI status、T細胞リンパ球の腫瘍組織内浸潤との関連について多症例の大腸癌臨床検体を用いた検討を行った。対象は日本人(511例)と米国白人(598例)の大腸癌1109症例でF. nucleatumの発現を解析し、臨床病理学的因子に加え、ゲノム・エピゲノム異常との相関についても検討。またImage analyzerを用いて腫瘍組織内へ浸潤した特異的なリンパ球(CD3+、CD8+、CD45RO+、FOXP3+ T細胞)の密度を自動カウントし、F. nucleatumとの関連についても解析を行った。その結果、大腸癌症例の13%(米国人)、9%(日本人)でF. nucleatumは陽性であった。MSI陽性は米国人大腸癌の16%、日本人大腸癌の8%で認められた。 また人種に関わらずF. nucleatum陽性例はMSI陽性と有意な正の相関を認めた。臨床病理学的・分子生物学的因子を変数として加えた多変量解析ではF. nucleatum陽性大腸癌の群は陰性群と比較して腫瘍組織内のCD3+T細胞の密度が有意に少ないことも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
大腸腺腫発生遺伝子変異マウスを用いたF. nucleatumの増殖、発癌を抑制する食餌、Probioticsなどの解析が今のところうまく進んでいないため。
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今後の研究の推進方策 |
臨床検体を用いて大腸前がん病変、早期大腸癌、正常粘膜におけるF. nucleatumの分布と存在量の同定し、組織を細かく分類した上で解析を行うことにより、F. nucleatumに関連性の高い発がん経路の特定を目指す。そのために大腸前がん病変、早期大腸癌、正常粘膜におけるF. nucleatumの分布をFISH法を用いて同定し、digital PCR法を用いて定量する方法を確立する。Apc遺伝子に変異を持つApcMinマウスを使用し、F. nucleatumを食餌として与えることにより腫瘍の発生(個数、サイズ、浸潤)に関して評価を行い、食物繊維量、Probioticsの併用によるF. nucleatumと腸内細菌叢の変化、腫瘍発生頻度の変化を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウスを用いた実験が滞っており、それによってその実験に関わる試薬を購入しなかったことから使用額に変更が生じた。 よって次年度は動物実験として大腸腺腫発生モ伝子変異マウスなどを用いたF. nucleatumの増殖、発癌を抑制する食餌、Probioticsを探求し、その抑制機序の解明もために本助成金を使用する予定。 また散発性の大腸がんでは80%以上においてApc遺伝子に変異が見られることから、Apc遺伝子に変異を持つApcMinマウスを使用し、F. nucleatumを食餌として与えることにより腫瘍の発生に関して評価を行い、食物繊維量、Probioticsの併用によるF. nucleatumと腸内細菌叢の変化、腫瘍発生頻度の変化を検討する。 そのために16S rRNAシークエンス、またメタゲノム解析としてはショットガンシークエンスも使用する予定であり、これらの費用も本助成金で賄う予定。
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