近年、大腸癌の発生・増大に腸管内常在微生物であるFusobacterium nucleatum (F. nucleatum)の関与が注目されているが、ヒトの体内における実際の存在や分布、正常粘膜や前がん病変における役割はまだ不明な点が多い。 大腸癌は現在の本邦における罹患数、死亡数は男女を合わせると第一位、第二位の癌腫であり、予防法の発見は国民の大きな利益となる。最新のコホート研究では食物繊維が豊富な食事はF. nucleatum陽性大腸癌のリスクを低下させるとの報告がなされている。これは食物繊維摂取というコストの低い方法で大腸内に存在するF. nucleatumに介入できる可能性を示している。従ってF.nucleatumの正常大腸粘膜や前がん病変における役割を解明することが臨床上重要な課題であると考えられる。しかしながら、従来のF. nucleatumの大腸癌に関する研究は進行がんの手術標本や癌細胞を用いた実験が主であり、正常粘膜や前がん病変を用いた研究はほとんど行われておらず、実際の人体腸管内におけるF. nucleatumの腫瘍増殖への関与の解明は不十分である。 今回、申請者は大腸腫瘍の発育早期におけるF.nucleatumの役割を解明するため、内視鏡的粘膜下層剥離術で採取された早期大腸病変(早期がんや前がん病変)の臨床検体を用いてF. nucleatumの存在と発現の解析を行い、さらにepigeneticな異常やnon-coding RNA(ncRNA)発現との関連を解析する。同定されたF. nucleatumと関連性の高いゲノム、エピゲノムの分子異常や発がん経路を基に、マウスを用いたF. nucleatumの増殖、発癌を抑制する食餌、Probioticsを探求し、その機序の解明を目指す。
|