研究課題
本年度も、国立がん研究センター中央病院へ来院された患者さんを対象に、研究代表者らが説明を行い、同意を得られた患者さんから便サンプル、生活習慣に関するアンケート調査を実施し、便サンプルを用いた腸内細菌叢及び腸内代謝産物の解析を進めることができた。本年度の具体的な成果は、大腸がんに対する内視鏡および外科的手術の腸内環境への影響について、便検体を用いたマルチオミクス解析による腸内環境の術前・術後の変化を検討した。大腸がんに関連する腸内微生物である Fusobacterium nucleatumなどは術後に有意に減少し、一方で、胆汁酸の1種である発がんに関与するデオキシコール酸とそれを生成する腸内微生物及びその遺伝子群は、術後(治療後)に有意に増加していた。また、結腸の左右差による増減の差異も認められた。さらに、大腸がんのリスクモデルを構築し、術後に多発腺腫または大腸がんを発症した集団の腸内環境は、これらを発症しない集団の腸内環境と比較し、疾患に対するリスクが高くなることを明らかにした。本研究の成果から、治療前後の腸内環境の変化によって、術後の大腸がんリスクを推定する臨床応用が期待される(Shiroma H, Shiba S, et al. mSystems 2022)。本研究期間全体を通じて、がん患者の腸内環境を探索する研究基盤を構築することができた。本研究基盤によって、膵がんを含めた消化器がんを疾患毎に腸内環境を解明し、さらに生活習慣に関するアンケート調査に基づいた腸内環境の特徴から、疾患の予防並びに予後との関連など、臨床応用へ繋がるデータ解析を行うことが可能である。今後は、腸内環境のデータと疾患などの臨床的背景、生活習慣等のアンケート調査の項目との関連を解析し、疾患の予防、予後が良好となる要因を明らかにすることで、臨床応用へ発展させることを目指す。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
mSystems
巻: 7 ページ: e00018-22
10.1128/msystems.00018-22.