研究実績の概要 |
身体を構成する臓器は、臓器ごとに異なる正常体性幹細胞により恒常性が保たれる。幹細胞は自己複製能と多分化能を有する。がん組織中にも、周辺のがん細胞を生み出すがん幹細胞があり、転移を含む腫瘍の悪性化、治療抵抗性などに重要であると示されつつある。幹細胞は単一ではなく、rapid growing, slow growingなものなど複数存在し、外部刺激に対し幹細胞が相互作用し、応答すると報告されている。脳腫瘍においてslow growingの幹細胞が腫瘍増大を促進する(Cancer cell 2012)、肺ではslow growingのAT2細胞の幹細胞機能が、AT1細胞障害時に活性化される(Nature 2014)、小腸でもslow growingのBmi1陽性幹細胞が放射線障害時にrapid growingのLgr5陽性細胞の機能を代償する(Nature 2011, Proc Natl Acad Sci U S A 2011)、胃においてslow growingのTroy陽性幹細胞が、抗がん剤によるDNA damageに対し、reserverとして機能する(Cell 2013)、等である。大腸がんや膵臓がんの現在の分子標的治療の効果が乏しい理由を、1)がん幹細胞に対する効果不十分、2)がんが生存の代償的経路を活性化させる、と考える。この考えに基づき、大腸がんのオートファジー阻害時の小胞体ストレス応答の代償的活性化を発見、両経路の阻害が効果的であることを示した(文献 Sakitani K et al. 2015 BMC Cancer)。 Mist1 を標的とする抗がん剤治療は効果を示すが、別の胃前庭部のがん幹細胞マーカーCCK2Rが代償的に増加することを発見した。これらのことから、代償的増殖幹細胞を含めた複数のがん幹細胞を同時に標的とする新規抗がん療法の有用性が期待できると考え研究を進めている。
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