進行がんに対する抗がん剤治療は精力的に研究されている。抗がん剤治療が開始初期には効果的であっても、治療経過とともに耐性を生じるケースが多く、最も進んだStageの胃がん・大腸がんの予後は抗がん剤治療を行っても1年程度に留まることが問題である(2016 Nature Rev Clin Oncology)。申請者らは胃がんの幹細胞(Mist1陽性細胞)を同定、Mist1を標的とする抗がん剤治療を行った。同治療は別の幹細胞マーカーCCK2R陽性細胞の代償的増加を惹起した。このことから、Mist1陽性細胞とCCK2R陽性細胞を同時に標的とする新規の治療が効果的な可能性が高いと考えるに至った。代償的増殖幹細胞を含めた複数のがん幹細胞あるいはがん微小環境を同時に標的とする新規抗がん療法の有用性を検討するため、以下の研究を行った。 1. Mist1が、胃がんのがん幹細胞であることを示す:Mist1陽性細胞を標識できるMist1-CreERT/Rosa26TdTomato マウスに化学発がん物質MNUを投与。2. Mist1陽性細胞がCCK2Rを含む他の胃がん幹細胞マーカー陽性細胞と異なることを示す:Mist1-CreERT/Rosa26TdTomato マウスのCCK2R抗体等による免疫染色。3. Mist1陽性細胞とCXCR4陽性細胞のオーバーラップを示す:Mist1とCXCR4を標識できるMist1-CreERT/CXCR4-GFP/Rosa26TdTomato マウス を作成、臓器を観察。4. CXCR4/CXCL12シグナル阻害の抗がん作用を示す:CXCR4阻害薬AMD3100 による治療効果を検討。5. Mist1陽性がん幹細胞標的治療による代償的CCK2R増加を示す。 Cxcr4とMist1はオーバーラップし、double positiveの細胞はin-vitroで高いcolony formation abilityを示す一方Cxcr4とCCK2Rはオーバーラップなしであった。CXCR4阻害薬AMD3100は抗胃がん作用を示した。また、Tie2-Cre/Cxcl12flox/floxマウスの胃がんモデルはCxcl12シグナルの低下に伴い、幹細胞マーカーMist1の低下、別の幹細胞マーカーCCK2Rの代償的増加を示した。
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