研究課題/領域番号 |
18K15818
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
渡辺 崇夫 愛媛大学, 医学部附属病院, 講師 (90650458)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 肝細胞癌 / PKR / 細胞増殖 / 血管新生 / 代謝 / HCV / メチル化 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでにC型肝炎ウイルス (HCV)関連肝細胞癌においてProtein kinase R (PKR)がErk1/2, JNK1などMAPKの活性化により、c-Fosおよびc-Junを活性化し、それに伴う細胞増殖促進作用を示すことを報告した。さらにPKRの腫瘍増殖抑制効果をin vivoで確認するために肝細胞癌株Huh7をヌードマウスに皮下移植したモデルを作成し、既存のPKR阻害剤を投与し、その腫瘍増殖抑制効果を示してきた。今年度は、Huh7の皮下移植モデルにおいて、PKR阻害剤投与後、2, 4, 24時間後の皮下腫瘍から蛋白質を抽出し、ウエスタンブロット解析を行い、阻害剤投与によりPKRのリン酸化が抑制されることを確認した。次にPKR阻害剤投与による肝がん増殖抑制効果の機序として血管新生に注目した。阻害剤の連日投与1ヶ月後に移植した皮下腫瘍から組織を回収し、血管内皮細胞マーカーのCD31の免疫組織染色を行った。PKR阻害剤投与群の腫瘍では有意に血管数が減少しており、PKR阻害剤には血管新生抑制作用があることが分かった。また我々はHCV複製肝癌細胞株においてPKRのノックダウンにより、複数の肝細胞癌内遺伝子のメチル化に変化が見られることを示してきた。それらの中には細胞内代謝のキー分子であるFOXO3を含め、代謝関連遺伝子が複数含まれていた。それらの遺伝子のうちphosphoglycerate dehydrogenase (PHGDH)はPKRのknockdownにより、プロモーター領域のメチル化頻度が低下し、それにより、そのmRNA発現が増加していた。PHGDHは複数の癌種で、癌の進展との関係が報告されているが、HCV関連肝細胞癌においてPKRはエピジェネティックな機序により、PHGDHの発現に影響を与えている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、まずPKR阻害剤によるin vivoでの腫瘍増殖抑制効果の機序について検討した。Huh7の皮下移植モデルにおいて、PKR阻害剤投与後に皮下腫瘍より蛋白質を抽出し、ウエスタンブロット解析を行い、阻害剤投与後少なくとも24時間までは活性化を意味するPKRのリン酸化が抑えられていることが確認でき、PKR阻害剤投与による腫瘍増殖抑制は腫瘍内のPKR活性化の抑制によることを示した。さらに腫瘍増殖抑制効果の機序として血管新生に注目し、阻害剤投与後の腫瘍の血管数をコントロール群と比較した。PKR阻害剤投与群では血管数が著しく減少しており、PKR阻害剤には腫瘍の血管新生抑制効果があることを示した。さらに、PKRは肝がん細胞内の代謝にも影響を与えている可能性があることが分かり、来年度以降解析を続ける。
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今後の研究の推進方策 |
肝細胞癌におけるPKRと代謝の関係に注目する予定である。まず当施設内ですでに使用可能である細胞外フラックス・アナライザーを用いて、解糖系, ミトコンドリア呼吸を解析し、PKR阻害剤投与やPKR発現修飾によりエネルギー代謝に変化が生じるかを検討する。さらにメタボロミクスを行い、PKR阻害剤投与やPKRノックダウン, 過剰発現により変化する代謝経路について網羅的に解析したい。また、これまでにHuh7細胞にPKR阻害剤を加えることで変化するリン酸化タンパク質を質量分析の手法で網羅的に解析し、PKR阻害剤のキナーゼとしてのターゲットを複数同定した。これらの中から腫瘍増殖や血管新生などに関与する鍵となるターゲットを明らかにしたい。さらに化合物ライブラリーを入手して、既存のPKR阻害剤よりもPKR活性抑制効果の強い新規PKR阻害剤の探索も行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度にPKRのキナーゼとしてのターゲットの候補となる蛋白質について発現プラスミドの作成を予定しており、そのための費用として繰り越した。
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