研究実績の概要 |
我々はこれまでに肝細胞癌においてProtein kinase R (PKR)が高発現していること、また肝細胞癌においてErk1/2, JNK1などMAPKの活性化により、c-Fosおよびc-Junを活性化し、それに伴う細胞増殖促進作用を示すことを報告した。本研究では、in vitro, in vivoにおけるPKR阻害剤 (C16)の腫瘍増殖抑制効果, 機序を明らかにし、PKRが肝細胞癌において新規治療標的となりえるかどうかを検討した。 肝細胞癌細胞株Huh7にPKR阻害剤を0, 500, 1000, 2000, 3000nMの濃度で添加したところ、MTTアッセイにて腫瘍の増殖が容量依存性に抑制された。次にBALB/c-nu/nuマウスにHuh7細胞を皮下移植し、PKR阻害剤を300 μg/kgで連日腹腔内投与を行った。PKR阻害剤投与後、2, 4, 24時間後の皮下腫瘍から蛋白質を抽出し、ウエスタンブロット解析を行い、阻害剤投与によりPKRのリン酸化が抑制されることを確認した。PKR阻害剤の連日投与により、腫瘍体積の増加がコントロールに比べ有意に抑制された。さらにPKR阻害剤投与28日後に腫瘍を摘出し、CD31の免疫染色により血管数を比較したところ、PKR阻害剤投与群では顕著に血管数が減少していた。血管新生抑制の機序として、Huh7細胞にPKR阻害剤を添加し、各種増殖因子の発現をreal-time RT-PCRを比較したところ、PKR阻害剤投与によりVEGF A, B、PDGF A, B、FGF 2, EGFの発現が低下していた。 PKR阻害剤の投与により腫瘍の増殖が著明に抑制された。またPKR阻害剤は腫瘍微小環境にも影響を与え、増殖因子の発現抑制により血管新生を抑制する作用も有していた。以上のことからPKRは肝細胞癌において新規治療標的となる可能性があることが示唆された。
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