研究課題
近年DAAs(直接作用抗ウイルス薬)の出現によるC型慢性肝炎の治療のめざましい進歩により、治癒に相当するsustained viral response (SVR)患者数が急激に増えている。DAAs治療は、HCVの排除以外にも肝発癌や脂質代謝異常など生体に様々な影響を与えることが示唆されているが、その機序は不明である。我々は、血清中のexosomeに内包されたmiRNAの発現プロファイルが治療前後で変化し、SVRにおける様々な病態に関与していると仮説を立て、検証を行っている。予備実験として、代表的DAAs であるダクラタスビル/アスナプレビル(DCV/ASV) 治療症例5例を対象とし、DAAs治療前後での血清exosome中のmiRNAの発現プロファイルをqPCR arrayを用いて網羅的に解析し、有意な変化を認めたmiRNAのうち特に変化が大きい8個のmiRNAを候補として選出した。2018年度は、DCV/ASV治療を行った多数症例(42症例)を対象として、治療前後の血清exosome中の候補miRNAの発現に有意な変化があるか、定量的PCRを用いて検討した。その結果、6個のmiRNAが治療により有意に低下することが分かった。さらに別のDAAsであるレディパスビル/ソフォスブビル(LDV/SOF)治療症例についても同様の検討を行い、治療に用いたDAAsの種類に関係なく変化する血清exosome中のmiRNAを見出した。バイオインフォマティクスを用いて、同定したmiRNAの標的となるpathwayを解析したところ、脂質代謝や、発癌や癌の進展にかかわるpathwayが上位に挙げられた。代表的な肝癌由来細胞株であるHepG2細胞に、同定したmiRNAに特異的なinhibitorを導入し、細胞に与える影響を検討した。その結果、細胞増殖速度の上昇や脂肪蓄積の低下が認められた。
2: おおむね順調に進展している
SVR後の高脂血症や糖尿病の悪化について、既に多くの報告がなされており、肝癌についても発がんへの影響等が考えられるなど、SVR後の病態に関してはその対策が急務である。しかし、その機序は未だ不明である。我々はDAAs治療により生じた血清exosome中のmiRNA発現プロファイルの変化がSVR後の病態に影響を与えるという仮説のもと、予備実験および多数症例での検討にて、DAAsの種類に関係なく治療後に低下する血清exosome中のmiRNAを見出した。SVR症例は脂質異常症や糖尿病の悪化が認められる一方、脂肪肝の改善が認められることが多い。同定したmiRNAの特異的inhibitorを肝癌細胞株に導入しSVR後の状態を模倣すると、脂肪蓄積が減少した。現時点で臨床検体を用いて得られた結果と、病態への関与を支持する基礎的データを得ており、成果が期待できる状況である。具体的な標的分子についても現時点で既に候補を絞る段階に到達しており、計画はおおむね順調、もしくは予定以上の結果を得ていると考える。
2019年度以降は、前年度までに絞り込まれた miRNA が肝臓培養細胞株の挙動に変化をもたらす変化を解析する。当初は発癌に関する表現型の変化を中心に検討する予定であったが、細胞増殖速度の上昇は2018年度に既に確認できた。一方で、同定したmiRNAが脂質代謝異常など複数の生命現象への関与を示唆するデータを得ており、同定したmiRNAの影響を受ける対象をより明確にする必要が生じている。そのために、同定したmiRNAに対する特異的inhibitorを用いて、影響を受ける遺伝子群を網羅的に解析する。これにより、SVR後に生じている変化をより詳細に解析できると考える。具体的には、HepG2細胞にmiRNA inhibitorを導入し、生じる遺伝子発現の変化をRNA-seqを用いて網羅的に解析する。得られた結果についてバイオインフォマティクスを用いて解析し、同定したmiRNAの肝細胞内における標的分子および影響を及ぼすpathwayをより明確にする。また、今後マウスを用いたin vivoの実験を検討しており、同定したmiRNAの発現ベクターや阻害ベクターを用いた実験の準備に取り掛かる予定である。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
CPT: Pharmacometrics & Systems Pharmacology
巻: 7 ページ: 384~393
10.1002/psp4.12292