研究課題
DAAs治療は、HCVの排除(SVR)以外にも肝発癌や脂質代謝異常など生体に様々な影響を与えることが示唆されているが、その機序は不明である。我々は、血清中のexosomeに内包されたmiRNAの発現プロファイルが治療前後で変化し、SVR後の様々な病態に関与すると仮説を立て、検証を行っている。昨年度までにDAAs治療前後での血清exosome中のmiRNAの発現プロファイルを網羅的に解析し、DAAs治療により発現が有意に低下するmiRNAを同定した。さらに多数症例を用いてその結果に一般性があることを検証、確認した。2019年度は、代表的な肝癌由来細胞株であるHepG2細胞に、同定したmiRNAに特異的な阻害剤を導入することでDAA治療後の変化を模倣し、細胞の挙動に与える影響を検討した。またその際に細胞にどのような変化が生じているか解析するため、特異的阻害剤導入により影響を受ける遺伝子群をRNA-seqを用いて網羅的に解析した。細胞の挙動の変化としては、細胞増殖速度の増加を認めた。同時に、脂肪蓄積能の低下が生じることを見出した。RNA-seqの結果、同定したmiRNAは先行したバイオインフォマティクスによる予想を遥かに超える影響を細胞に与えていた。そのため、バイオインフォマティクスにより予想されるmiRNAの標的遺伝子群と、RNA-seqにて解析した実際に発現が変化する遺伝子群とを比較し、両者に共通して変化する遺伝子を改めて標的遺伝子と定義しpathway解析を行った。その結果、糖脂質代謝、細胞増殖などに関わるpathwayが上位に挙げられ、同定したmiRNAは発癌や癌の進展に加え、糖脂質代謝に影響することが示唆された。この同定したmiRNAについては細胞周期、がん抑制に加え、肝脂質代謝に関する報告があり、癌に関してのみならず脂質代謝に与える影響も大きいと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
予備実験および多数症例での検討にて、DAAs治療後のSVR達成患者で低下する血清exosome中のmiRNAを同定した。miRNA標的予測及びRNA-seqを用いた網羅的解析の結果、miRNAおよびその標的遺伝子が関与するpathwayは発癌のみならず肝脂質代謝にも関与していることを見出した。同定したmiRNAはSVR後に低下していたため、肝細胞株に特異的阻害剤を導入しSVR後の状態を模倣すると、細胞増殖速度の増加および脂肪蓄積能の低下が認められた。本研究課題の主たる検討対象であるSVR後発癌への関与の解析は引き続き行っているが、加えてSVR後に生じる代謝変化への影響について予想以上の成果が得られたため、そちらの解析も並行して行っている。現時点で臨床検体を用いて得られた結果にもとに行った基礎的検討にて、病態への関与を支持するデータを得ており、成果が期待できる状況である。具体的な標的分子について、現時点で既に候補を絞り阻害剤等で影響を確認する段階に到達しており、若干の変更点はあるものの計画はおおむね順調、もしくは予定以上の結果を得ていると考える。
SVR後の肝発癌および糖脂質代謝異常の増悪は早急に対応すべき問題とされており、そちらも並行して解析を行う。<肝発癌について>同定したmiRNAを阻害することにより細胞増殖速度が増殖することを確認した。2020年度はオリゴ miRNA もしくは miRNA 発現ベクターを用いて同定したmiRNAを肝癌細胞株に強制発現させ、逆の変化が生じるかを確認する。予想された結果が得られない場合には、同定したmiRNAの発現が少ない細胞種、もしくは初代培養肝細胞を用い同様の実験を行う。併せて阻害剤で生じた変化が同miRNAの強制発現により解除されるか確認する。また、ヒトもしくはマウス肝癌細胞株にmiRNAのアンチセンス発現ベクターを安定発現させた後SCID マウス皮下へ移植し、腫瘍形成能の変化を評価する。<肝脂質代謝について>2019年度までの解析で標的となるpathway、分子は想定できた。2020年度はその中で特に表現型への影響が大きいと予想されるKey遺伝子およびその下流の分子等に与える影響を、定量的RT-PCRやWestern Blotting等で確認する。さらにこの標的となる分子の阻害薬を用いて、生じる結果について実臨床における病態と整合性があるか検討する。また、可能であれば同定したmiRNAの発現ベクターをマウス肝に尾静脈注射にて導入し、肝脂肪蓄積および血中の中性脂肪、コレステロール等に与える影響を評価する。同定したmiRNAはSVR達成後に生じる脂質代謝異常の原因を示唆している可能性があり、単にバイオマーカーにとどまらず将来的に創薬等の臨床応用へ繋がる可能性がある。
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