骨髄や臓器の結合組織に存在するMuse細胞は、傷害組織に集積しその組織に応じた細胞に自発的に分化する能力を持つ。本研究では、急性肝障害患者におけるMuse細胞の動態解析を行うことで、ヒトの病的状態におけるMuse細胞の役割を明らかにすること目的とした。研究成果として、急性肝障害患者では臨床経過中にMuse細胞とその遊走因子(スフィンゴシン-1-リン酸)が上昇することを明らかとした。また、末梢血に動員されたMuse細胞は障害肝に遊走し、生着・分化し得ることを示した。 その他、付随研究の成果として以下の研究成果が得られた。血友病A 患者に肝移植が行われると、血友病の表現型が治癒すると報告されていた。我々は、肝移植後の凝固因子活性を詳細に観察結果、継時的に第Ⅷ因子の活性は血友病A 再燃のレベルまで低下し、肝移植後に血友病A が再燃する可能性があることを報告した。この結果は、血友病A で欠損している第Ⅷ因子の産生細胞である類洞内皮細胞が、肝移植後の長期的な経過で、第Ⅷ因子を産生することのできないレシピエント由来の細胞に置き換わっている可能性を示唆する結果である。臨床的データからも、Muse 細胞のような肝外由来の多分化能を持つ細胞が肝臓のホメオスタシスに関与している可能性が得られた。 以上、再生医療の細胞ソースとして注目されるMuse細胞が、病的状態で一過性に動員され、障害組織の修復を行なっていることを支持する結果が示された。本知見は、急性肝障害におけるMuse細胞の動態解明と、肝疾患に対するMuse細胞の細胞治療の可能性を検証するための基礎的データとなる。
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