研究実績の概要 |
近年、C型肝炎ウイルスに対して有効な治療法が開発されたが、ウイルス除去後も肝発癌のリスクが高いことから、従前にも増して肝癌の進展抑制は喫緊の研究課題である。申請者らはこれまでに、Jag1/Notch2シグナルが線維肝の再生を促進することを報告してきた。そこで本研究課題では、肝癌の進展に対するNotchシグナルの作用について検討した。 まず、3週齢のマウスにdiethylnitrosamine (DEN)を投与し肝癌を誘発させたところ、Dll4が肝癌細胞に、Jag1が間葉系細胞にそれぞれ発現していることが明らかになった。次に、肝細胞特異的Dll4欠損マウスでは、対照マウスと比較し、肝表面の腫瘍の個数および平均直径が有意に減少した。同組織を抗Notch1抗体によって免疫染色した結果、対照マウスでは肝癌細胞の核にその発現が認められたのに対して、Dll4欠損マウスではNotch1の染色性そのものが顕著に低下していた。一方で、Jag1欠損マウスでは肝表面に認められる腫瘍の発生率および個数が有意に上昇した。また、Jag1欠損により肝細胞におけるNotch2の核内移行が消失していた。そこで、Notch受容体によるNotchシグナルの差異を検討するため、Notch1, Notch2それぞれの細胞内ドメインを過剰発現するアデノ随伴ウイルスを作製し、野生型マウスへ投与し、肝臓の遺伝子発現変化を検討した。その結果、Notch1はCDK1などの細胞増殖関連遺伝子の発現を上昇させ、Notch2はCDKN1などの細胞増殖抑制遺伝子の発現を上昇させることを見出した。 以上のことから、肝癌進展に対して、肝癌細胞に発現するDll4はNotch1シグナルを活性化することで促進的に作用し、間葉系細胞に発現するJag1はNotch2シグナルを活性化することで抑制的に作用することが明らかとなった。
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