研究実績の概要 |
膵臓の慢性炎症性疾患は慢性膵炎及び自己免疫性膵炎に大別される。慢性膵炎の発症には喫煙が関与することが判明しているが、喫煙習慣が自己免疫性膵炎の発症に及ぼす効果は明らかになっていない。そこで、本研究では喫煙習慣が自己免疫性膵炎の発症に及ぼす効果を解明した。当施設に通院している自己免疫性膵炎患者の腸内細菌叢について、16SrRNAを標的とする次世代シークエンス法により解析した。タバコの煙の中にはダイオキシンの一種である2, 3, 7, 8-Tetrachlorodibenzodioxin (TCDD)が含まれていることから、TCDDの投与が自己免疫性膵炎の発症に及ぼす効果を解析した。自己免疫性膵炎患者の腸内細菌叢について、ステロイド治療前後の便検体を用いて、解析したところ、治療前後で増減を示す腸内細菌が同定された。また、TCDDの投与はマウス自己免疫性膵炎の発症を抑制したが、その効果はIL-22の産生増強を伴っていた。自己免疫性膵炎モデルではTCDD投与によるタバコ由来成分の暴露は疾患の発症を抑制した。これらの結果は喫煙の中断や禁煙が自己免疫性膵炎の発症に関与することを示唆している。今後の展望として、AhR経路の活性化による自己免疫性膵炎の発症抑制がTCDDに特異的な現象かどうかを検討するために、Indole-3-pyruvic acid (IPA)含有飼料の給餌が自己免疫性膵炎の発症に果たす役割を検討する。IPAの給餌はTCDDの全身投与よりも生理的なモデルと考えられ、AhRの活性化が自己免疫性膵炎の発症に果たす役割について、有用な根拠が得られると考えられる。また、AhR-IL-22経路が自己免疫性膵炎の発症に及ぼす効果については、IL-22中和抗体の投与実験やIL-22産生細胞の同定を通して、解析を進める予定である。
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