研究課題/領域番号 |
18K15846
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
國富 晃 京都大学, iPS細胞研究所, 特定研究員 (30570882)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ヒトiPS細胞 / リンカーヒストン / 心筋分化 |
研究実績の概要 |
人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell: iPS細胞)は分化細胞に4つの転写因子(Oct4/Sox2/Klf4/c-Myc)を導入することにより樹立され,循環器領域においてはヒトiPS細胞から分化誘導した心筋を用いた様々な臨床応用が期待されている.しかし現状ではヒトiPS細胞の細胞株間での質のバラつきは大きく,心筋分化効率は低い上に得られる分化心筋は機能的に未成熟でその性質も極めて不均一であることが臨床応用における重大な障壁となっている. 我々は卵母細胞特異的に発現しているリンカーヒストンH1fooをコードしている遺伝子であるH1fooを上記転写因子と共に分化細胞に導入することで,高品質なマウスiPS細胞を高効率に作製する方法を開発した(Kunitomi A., Stem Cell Reports. 2016).この結果を基にヒトH1FOOを用いてマウスiPS細胞と同等の高い多分化能を持つプライム型およびナイーブ型ヒトiPS細胞を効率良く樹立し,より成熟した心筋細胞への高効率な分化を実現することで,分化心筋を用いた再生医療を飛躍的に発展させることを目的として研究を進めている. 初年度はセンダイウイルスベクターを用いてH1FOOを分化細胞に強制発現させるにあたり,H1FOOの受精卵における発現パターンにより近い状況を作ることで樹立効率がより改善する可能性を考え,速やかに目的蛋白の消失が得られるProteoTunerシステムをH1FOOベクターに組み込んだ.その結果マウスiPS細胞樹立時と同等に効率良くプライム型のみならずナイーブ型ヒトiPS細胞が樹立できることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
より高品質なヒトiPS細胞樹立にあたり良好な遺伝子導入効率を有するセンダイウイルスベクターを用いてH1FOOをOCT4, SOX2, KLF4, LMYCと共に分化細胞に強制発現させたところ,iPS細胞の樹立効率は向上するものの,マウスiPS細胞樹立時と比較すると改善の余地があった. H1FOOの受精卵における発現パターンにより近い状況を作ることで樹立効率がより改善する可能性を考え,速やかに目的蛋白の消失が得られるProteoTunerシステムをH1FOOベクターに組み込むことで,マウスiPS細胞樹立時と同等に効率良くプライム型ヒトiPS細胞が樹立できることを確認した. また現在は分化細胞から直接樹立することが困難とされているナイーブ型ヒトiPS細胞についてもセンダイウイルスベクターを用いて安定的に樹立することに成功し,機能解析の結果既報と同等のナイーブ型であることを確認した.更にH1FOOを用いることでより効率良くナイーブ型ヒトiPS細胞の樹立が可能であることを確認した. 初年度の目的であったプライム型およびナイーブ型ヒトiPS細胞を分化細胞から効率良く樹立する方法を確立し,ナイーブ型ヒトiPS細胞の基本的な機能解析を完了する目的は達成しており,研究計画は概ね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は樹立したプライム型およびナイーブ型H1FOO-iPS細胞を,更に様々な機能解析方法を用いてOCT4, SOX2, KLF4, LMYCのみの遺伝子導入で樹立した対照群のiPS細胞と比較する.具体的にはトランスクリプトームやメチロームはもとより,基本的な三胚葉分化能を接着培養により検証する. 上記検証を経て次に心筋分化誘導を行い,対照群のiPS細胞と心筋分化誘導効率や心筋としての機能を比較検討する. またH1FOOがヒトにおいても樹立効率を高めたメカニズムについてRNAseq,ChIPseqを用いて検証を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は当初の予定よりも条件検討が比較的スムーズに進んだため,使用した研究費も比較的少額に抑えることが可能であった. またこれまでの研究成果をふまえて,今年度は多数のクローン間での様々な分化誘導による比較検討および網羅的解析を施行予定であり,昨年度よりもより著明に高額な研究費を必要とすることが予想された. 以上の理由をもとに研究費使用計画を再考した結果次年度使用額が生じた.
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