研究実績の概要 |
本年度はプライム型およびナイーブ型H1FOO-iPS細胞クローンを多数樹立し、従来のOCT4, SOX2, KLF4, LMYCのみの遺伝子導入で樹立した対照群のiPS細胞クローンと様々な機能比較を行った。RNA-seqおよびメチル化アレイの結果、H1FOO-iPS細胞はクローン間の遺伝子発現およびメチル化のばらつきがプライム型およびナイーブ型いずれにおいても抑制されていた。またRNA-FISHを用いてX染色体再活性化の有無をナイーブ型で検証したところ、ナイーブ型H1FOO-iPS細胞はいずれのクローンにおいてもナイーブ型を示す細胞が大多数を占めており、より質の高いリプログラミングが行われていることが示唆された。 次に多分化能の評価として胚様体形成能を比較したところ、H1FOO-iPS細胞は特にプライム型において内胚葉への分化能に優れていることが判明した。またプライム型を多数のクローン間で複数回心筋分化させ、その分化効率を対称群と比較したところ、H1FOO-iPS細胞はよりばらつきが少なくかつ高効率な心筋分化能を示した。 さらにH1FOOがヒトiPS細胞樹立時に与える影響についてその分子機序の解明を行うため、H1FOOを含めた初期化因子を導入後早期の細胞を回収しRNA-seqを行い,H1FOOの追加により発現量が変動している未知の遺伝子群を検索したところ、多数の発現変動遺伝子を認めた。それらの遺伝子を個別に終末分化細胞に強制発現させ初期化効率が向上する因子を選別したところ、最終的にFKBP1AとAPOE3がその条件を満たす因子と判明し、これらがH1FOOがリプログラミングを促進するメカニズムの一端を担っている可能性が示唆された。
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