研究課題/領域番号 |
18K15853
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
井手 佳菜子 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 特任研究員 (20725791)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 再生医療 / 腫瘍化阻止 / 心筋細胞 / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
ヒト多能性幹細胞(ES/iPS細胞;hPSCs)は、医療・医薬創出の基盤ツールとして期待されるが、その安全性において最重要課題である腫瘍化(奇形種、癌)の完全な克服技術は未だない。我々はこれまでにヒトES/iPS細胞の腫瘍化を同定・治療する革新的なレンチウイルスベクター(TC-LV)の開発に取組み基盤を完成させ、機能検証においても未分化細胞特異的な殺傷効果を実証できている。そこで本研究では、本研究の核心となる目的細胞(心筋細胞等)への分化誘導後の残存未分化細胞特異的な殺傷効果を検証し、hPSCsの分化誘導後に残存する腫瘍化細胞の選択的除去技術を確立することを目的とし以下の4点に取組んでいる。 1)腫瘍化原因細胞を特異的に同定・殺傷できるプロモーターの同定、2)薬剤誘導性に確実に腫瘍化原因細胞を殺傷する遺伝子の同定とシステムの確立、3)心筋細胞分化誘導後の腫瘍化原因細胞の除去と、移植時の安全性の検証、4)特定領域へのゲノム編集技術を用いた腫瘍化除去技術の安全性向上に対する検討 昨年度は、1)で複数解析候補の遺伝子を搭載したベクターを複数完成させ、機能検証を行った。予想した通り、各プロモーターでそれぞれ特異度・感度の異なる結果が得られ、さらに詳細な解析を進めることで目的のとおり最適なプロモーターの同定が可能となる。また、2)についても、現在解析を行っている殺傷遺伝子で、腫瘍化原因細胞に特異性の高い殺傷効果が得られており、分化細胞への安全性が高いことが示された。今後もより詳細な解析を進め、最終的に3)4)についても検証を行うことで腫瘍化原因細胞を直接除去可能なベクターシステムの確立が期待されるため、引き続き研究を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)腫瘍化原因細胞を特異的に同定・殺傷できるプロモーターの同定:既に目的細胞可視化のための蛍光タンパク質、および殺傷のための薬剤誘導性自殺遺伝子を搭載し、かつ複数プロモーターの入れ替えが自在にできるリコンビネーションカセットを持つ、TC―LVの基盤構築を複数完成していたため、これらに解析候補となる複数のプロモーターを組み替えたものを作製し機能検証を行った。TC―LV導入未分化細胞では、各プロモーターの感度に応じた薬剤選択性自殺遺伝子の発現を確認でき、順調に計画が遂行できているものと評価する。 2)薬剤誘導性に確実に腫瘍化原因細胞を殺傷する遺伝子の同定とシステムの確立:1)に付随して今回使用した薬剤誘導性自殺遺伝子が持つ殺傷性は、プロモーターの特異性に依存せずとも未分化特異的な殺傷効果が示された。よって今後は適切なプロモーターの選択を行うことでより特異性の高い安全な腫瘍化細胞への殺傷効果を得ることが期待でき、順調に計画が遂行できているものと評価する。 3)心筋細胞分化誘導後の腫瘍化原因細胞の除去と、移植時の安全性の検証:3)については、1)2)で十分な検討を行った上で、最終段階で検証予定であるが、予備段階として上記ベクター導入細胞での心筋分化誘導が可能であることが確認できたため、計画は順調に遂行できているものと評価する。 4)特定領域へのゲノム編集技術を用いた腫瘍化除去技術の安全性向上に対する検討:4)については、1)~3)について詳細な検討を行った上で、最終年度で検証を実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、本TC―LVシステムを用いた複数プロモーターにおける機能解析を行い、腫瘍化原因細胞の除去に対する有用性が確認できたため、今後はより除去効果の高いプロモーターに焦点を絞り、in vitroおよびin vivoにおける心筋分化誘導後の残存未分化細胞に対する殺傷効果および安全性の詳細な機能検証を行い、最終的に臨床応用可能な腫瘍化細胞の選択的除去技術の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度は、我々が開発した独自システムを用い、腫瘍化原因細胞を特異的に同定・殺傷可能なプロモーター探索のための網羅的解析を進めることができ、また同時に薬剤選択制自殺遺伝子の効率的な殺傷効果を得ることができており、計画通りに研究を遂行することができている。一方で、検証を進める中で一部予想外の結果が得られたものがあり、より詳細な解析を行うため追加実験を行い、これに伴い一部の実験を次年度以降の実施としたため、予算の次年度使用が生じた。
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