我々は近年,血管新生や動脈硬化進展作用を有する胎盤増殖因子(PlGF)とその内因性アンタゴニストである可溶性Flt-1(sFlt-1)に着目し,その発現のバランスが慢性腎臓病における心血管疾患の発症あるいは進展に重要であることを明らかにしてきた. 今回,心腎連関のkey factorで,心腎連関の悪循環を断ち切る創薬標的候補であるPlGFとsFlt-1の発現不均衡に関わる機序の解明および血中PlGF濃度の臨床的意義について研究を行い,以下のことを明らかにした. ① ApoEノックアウトマウスの5/6腎摘(5/6NR)群ではsham群に比べ,腎組織でのsFlt-1の発現が有意に低下していることを認めた.またそのsFlt-1の発現低下は,経口吸着炭であるAST-120の投与で抑制されていた.同様に,胸腹部大動脈の動脈硬化プラーク面積は5/6NR群でsham群に比べ有意に大きく,5/6NR+AST-120群では5/6NR群に比し,その範囲が有意に縮小していることを明らかにした.また尿毒素を用いた細胞実験も並行して行っている. ② 血中PlGF濃度の臨床的意義を検討するために,慢性腎臓病患者が多く含まれる急性心不全患者のイベントについて検討した.急性心不全患者408例について.入院初日の血清PlGF値を測定した.PlGF高値群とPlGF低値群の2群に分けて比較検討を行ったところ.生存曲線では全死亡,心血管死亡ともにPlGF高値群で有意に予後が悪い結果であった.またコックス回帰分析で各種パラメーターを調整後もPlGF高値であることは独立した予後予測因子であった.
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