研究実績の概要 |
心筋細胞は胎児期では盛んに増殖するが、生後は再生能力をほとんど失うため、一度心筋障害を受けると回復は困難である。心臓再生法としてiPS細胞を体外で心筋に分化させて移植する心筋移植研究が盛んだが、腫瘍形成や移植心筋の生着など課題がある。 これに対して我々は、心臓内の自己の細胞から心筋を作製する、新しい心臓再生研究に取り組んでいる。これまでに世界に先駆けて、心臓内線維芽細胞に心筋特異的転写因子を導入し、心筋リプログラミングに成功した(Ieda et al, 2010 Cell)。 本研究では、さらに胎児期心筋に特異的に発現する転写因子の中から、成熟心筋の分裂を促進させる新規因子を同定し、心筋自体を分裂させる新しい心臓再生法を開発することが主眼である。そして同転写因子による心筋細胞増殖制御の分子機構を解明することを目的にする。 まず、最初にin vitroのスクリーニングで新規心筋増殖転写因子を同定した。候補因子としては、胎児期心筋特異的に発現する24の転写因子を用いた。次にこの心筋増殖転写因子をin vivoの実験系に応用して、生体内の成熟心筋細胞を増殖可能な心筋にリプログラミングを行った。そして、この心筋細胞からRNAを抽出しマイクロアレイを実施した。これら網羅的な解析により、新規心筋増殖転写因子がAurkb、Mki67、Ccna1、およびCcnb2を含む複数の細胞周期活性化因子を上方制御し、腫瘍抑制因子Rb1を抑制することで細胞周期レギュレーターの発現を変更することによって、生後および成体のマウスの心臓におけるCMの増殖を促進することを確認した。
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