研究課題
本研究の目的はマクロファージおよび平滑筋における接着斑キナーゼ(focal adhesion kinase:FAK)の機能に着目し、大動脈解離の進展増悪メカニズムを解明することである。我々は浸透圧ポンプを用いたβ-アミノプロピオニトリル、コラーゲン架橋阻害剤、およびアンジオテンシンII(BAPN+AngII)の持続注入により大動脈解離のマウスモデルを作成した。このモデルは、大動脈解離の破裂によって、2週間で約60%の死亡率を示した。マウス解離モデルの解析を行うため、リン酸化FAKおよび平滑筋αアクチンに対する蛍光二重染色を行ったところ、FAKは大動脈解離発生後の平滑筋細胞で主に活性化された。経口投与が可能なFAK阻害剤であるPND-1186の投与は、上行大動脈を含む大動脈弓において大動脈解離の重症度を有意に減少させた。さらに、死亡率はPND-1186の投与により63%から20%に改善させた(P<0.01)。ウエスタンブロットを用いてリン酸化FAKを測定し、解離モデル作成後の時系列別に比較した。解離発症前に相当する解離モデル作成後3日目のFAKで活性化する傾向にあった。PND-1186投与の有無で解離発症前の大動脈組織に対して行ったトランスクリプトーム解析では、PND-1186投与群で造血および免疫系の遺伝子が抑制された。これらの発見は、FAKが大動脈壁に病理学的ストレスを伝達して組織破壊を引き起こすことで、大動脈解離の病因において中心的な役割を果たすことを示した。また、我々は大動脈解離において、炎症応答が外膜強化をきたすことをすでに発見しており、死亡率の低下はFAKが外膜強化に関与している可能性を示唆した。細胞機能に着目した解離病態の解明を行うために、組織特異的ノックアウトマウスを用いて野生型マウスと比較する計画を実行する。
2: おおむね順調に進展している
マウス解離モデルにおけるFAKの役割を明らかにするためFAK阻害薬を投与し、解離病変長の短縮と大動脈破裂の発症率の低下を認めた。現在は解離発症前の大動脈組織におけるFAKおよびその他タンパクの解析を進めている。マウス解離モデルの解析で、解離刺激が大動脈のFAK活性を亢進することを明らかにした。この知見に基づき、平滑筋細胞およびマクロファージ特異的FAKマウスによる解析を予定しており、必要なマウス導入の手続きを開始した。以上より、解離病態におけるFAKの役割解明は概ね順調に進展していると判断した。
大動脈解離の進展・増悪メカニズムへのFAKの関与を明らかにするために、解離発症前の大動脈組織におけるFAKおよびその他タンパクの分子動態を観察する。解離刺激が平滑筋細胞および炎症細胞においてFAKを活性化することが認められたため、当該組織の特異的ノックアウトマウスでFAKの役割を検討する。ヒト解離組織を用いて、マウスで得られた結果がヒト病態に当てはまるかどうかを検証する。
遺伝子改変マウスの一部は凍結胚の状態であり個体化後の納入が次年度となったため、次年度使用額が生じた。予算の一部を今年度の試薬類に充て研究の加速を図った。次年度使用額は主に遺伝子改変動物およびその解析に充てる予定である。
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