左室収縮能の保たれた心不全(HFpEF)は、その有効な治療法が未だ開発されておらず、世界的な課題となっている。本研究の目的はLIPUS治療がマウスの心臓拡張機能障害を改善するかどうかを検討することである。HFpEFモデルマウスとして、肥満2型糖尿病マウスであるdb/dbマウスを使用した。12週齢のdb/dbマウスおよびそのlittermateであるdb/ +マウスに対してLIPUS治療またはプラセボ治療を行った。20週齢時での経胸壁心エコー検査と心臓カテーテル検査において、db/db-control群ではdb/ +-control群と比較して、左室拡張能の低下が示された。これらの左室拡張能のパラメータは、db/db-LIPUS群においてdb/db-control群と比較して有意に改善された。また、マウスの右心室から採取した心筋組織(trabeculae)を用いて電気刺激による収縮下での張力と細胞内Ca2+濃度([Ca2+] i)を測定した。db/dbマウスから採取した心筋組織では、最大弛緩速度(dF/dt min)の低下、[Ca2+] iの減衰時間の延長が認められた。一方で、これらのパラメータはdb/db-LIPUS群においてdb/db-control群と比較して有意に改善され、LIPUS治療が心筋の弛緩特性を組織レベルで改善したことが示唆された。Western-blottingの結果からは、心筋におけるeNOS-NO-cGMP-PKG経路の活性化及びCa2+handling関連タンパクの発現の亢進が示された。以上の結果から、LIPUS治療がeNOS-NO-cGMP-PKG経路の活性化を介してdb/dbマウスの左室拡張機能の低下、運動耐容能の低下を抑制することが示された。このことはLIPUSがHFpEF患者の治療法として有用である可能性を示唆している。
|