慢性心不全は、これまでモデル動物を用いた基礎研究が積み重ねられてきたが、未だ予後不良の疾患である。従来の研究では「モデル動物とヒトの種差及び心不全の病態の差異」が臨床応用における重要な課題となってきた。研究者はこの課題を乗り越える工夫として、圧負荷モデルマウス及び複数の病態のヒト心不全における心臓組織の遺伝子発現を複合的かつ網羅的に解析することで、いずれの病態においても発現が大きく増加する共通の遺伝子としてドパミン受容体D1(D1R)を同定した。研究者は、心不全時のD1Rは心筋細胞で増加していることを明らかとした上で、シーズ探索の結果に基づき、心筋細胞特異的ドパミン受容体欠損マウス及び強制発現マウスを作製し、機能解析を行った。その結果、ドパミン受容体欠損マウスでは心不全時の不整脈が抑制されるとともに予後が改善され、強制発現マウスでは致死的不整脈が増加した。このことから、心不全時に心筋細胞で発現増加するドパミン受容体は致死的不整脈の発症に寄与していることが明らかとなった。その作用機序としては、心筋細胞内のリアノジン受容体のリン酸化を介し、細胞内のカルシウム濃度の変化に異常をきたしていることが示唆された。さらに、東京大学医学部附属病院および共同研究先であるコロラド大学附属病院の2病院において、重症心不全患者の病歴を解析し、致死的不整脈の治療歴あるいは埋め込み型除細動器による治療歴のある患者群(不整脈群)と対照群(非不整脈群)の比較を行ったところ、心臓ドパミン受容体は不整脈群の患者において、より発現増加が認められており、心臓ドパミン受容体がヒトにおいても心不全時の致死的不整脈の発症に関与していることが示唆された。 本研究成果は、重症心不全患者の突然死を抑制する新規治療法の開発に大きく貢献することが期待されるものと考える。
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