研究課題/領域番号 |
18K15889
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
多久和 綾子 大阪大学, 医学系研究科, 特任研究員 (50779791)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | RNAseq / 心筋症 / スプライシング異常 |
研究実績の概要 |
心筋症を主とする難治性循環器疾患には若年発症例や心移植適応となる重症例が含まれ、遺伝的な影響が強く示唆されるが、数々の大規模遺伝子解析においては高くても40%程度の原因変異同定率にとどまっている。家族歴のある症例においても同定されない例があり、現在の解析手法では見いだされない遺伝子異常が隠れている可能性が指摘されている。通常、遺伝性疾患の原因変異を探索する場合、特定領域のみを対象とするサンガーシーケンス、候補遺伝子を集中的に解析するパネルシーケンス、全遺伝子のエクソン領域を対象とする全エクソームシーケンス(WES)、ゲノム全体を網羅的に解析する全ゲノムシーケンス(WGS)のいずれかの手法が用いられる。心筋症は原因とされている遺伝子数が100を超える多様性の高い疾患で、パネルシーケンスで完全にカバーすることが難しいため、申請者はこれまでWESによる遺伝子解析を試みてきており、やはり20~30%の原因変異同定率にとどまっている。 そこで本課題では、原因変異同定率の改善を目的として、RNAseqによるスプライシング異常の検出を組み合わせた遺伝子解析を試みた。まずは組織からのRNAseqを行うこととし、検体の得られる心臓移植例を中心にRNAseqを実施した。心臓移植例は、循環器疾患の中でも最重症例であり、大きな構造異常を起こしやすいスプライシング異常が含まれる確率も高いことが予測されたため、この症例選択とした。得られたデータから、いくつかの計算手法により、全遺伝子を対象としたスプライシング異常の検出を行い、対象症例においてそれぞれ複数の異常スプライシングを検出した。この中には、既知の原因遺伝子上の異常も含まれた。さらに、スプライシング異常の原因変異を正確に同定するために、それらの症例のエクソーム解析を行った。現在検出されたスプライシング異常に関連する変異の特定を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は2018年7月まで産前産後休暇および育児休業を取得しており、その期間研究を進めることが難しく、本課題への着手が遅延した。しかしながら、申請者の所属組織内の別課題において同一症例のRNAseqを実施する必要があり、一部シーケンスデータについては事前に取得できたことから、シーケンスに関してはおおむね順調な進捗となっている。 一方解析環境に関して、これまで使用していたシステムに不具合が相次ぎ、その対応が必要となったことなどから、解析環境の整備に予想していたより時間を要した。解析手法に関してはソフトウェアを使用する環境を予定通り構築でき、初年度内に解析を始めることができた。以上の経過から、総合的には、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
検出されたスプライシング異常の病原性の評価は困難であるが、まずは、候補遺伝子上の異常を中心に、スプライシング異常を引き起こした原因変異の同定を進めていく。現在、心筋症はエクソーム解析のデータからスプライシング異常を検出するプログラムの開発が進められている。申請者の研究では心臓移植が実施された重症心不全患者とその待機者を中心とした検体の解析を行っているが、通常心筋細胞の生検組織を研究用に取得することは難しく、将来的にはより低侵襲な方法で得られる検体で同様の解析を実施することが求められる。そのため、末梢血由来の解析を目指し、エクソーム解析からスプライシング異常を推定するソフトウェアは数多く開発されている。本課題で得うる情報はこれらのソフトウェアの精度の確認や、制度向上のために用いられる可能性がある。あるいは、末梢血の発現解析が組織のRNAseqの代替手法としてどれだけ利用可能かという検証も必要であり、こちらも現在検討中である。さらに、ショートリードのシーケンスでは一部症例においてマッピング不良による、間違ったスプライシングの検出が起こる可能性があるため、ロングリードシーケンスを用いたより正確なスプライシング検出が可能になるかどうかの検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
シーケンスに必要な試薬の購入費を物品費に計上していたが、今年度シーケンス分に関しては他課題との共同実施となったため、本課題からの支出は生じず、一部費用が次年度使用額となった。そのため、計画時は検討していなかった末梢血のRNAseqの検討や、対象症例の拡大のために使用予定である。
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