研究課題/領域番号 |
18K15889
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
多久和 綾子 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任研究員 (50779791)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 遺伝子解析 / スプライシング |
研究実績の概要 |
シーケンスコストの加速度的な低下により、希少疾患・小児疾患を筆頭に遺伝性疾患の次世代シーケンサーによる遺伝子解析は増加傾向にある。WESによる変異解析で疾患の層別化が進んだ一方で、明らかな家族歴のある症例であっても、その原因変異同定率が十分とはいえない。循環器系遺伝疾患である心筋症もその一つで、原因変異同定率は高い施設で50%足らずにとどまっている。この乖離の原因として近年注目されているのがスプライシング異常である。しかし、イントロンへの変異やアミノ酸変化は伴わないエクソン上の変異により、新たなスプライシングドナー/アクセプターが生成され、異常なスプライシング産物ができる場合、通常のWES解析では検出しにくい。さらに、スプライシングドナー/アクセプターの優先順位は非常に複雑で、配列のみから予測するソフトウェアの精度が向上しない問題が存在する。 こうした状況の中、申請者は重症心疾患患者の生検組織を研究用に利用できる環境にあったため、生検組織を用いたmRNAseqと、WESを含むDNAseqを組み合わせて見ていくことで、WESで得られたゲノム配列からスプライシング異常を検出する精度向上に寄与することを目指し研究を行ってきた。これまでに、心臓組織のmRNAseqと末梢血由来のDNAを用いたWESを実施し、その解析を行った。関連遺伝子のトランスクリプトの解析を行うと、複数の症例で通常データベース上にないアイソフォームが見られ、周辺のDNA配列を探索した結果その原因となった変異を同定することができた。一方で、これらの変異はかならずしもスプライシング異常を引き起こす変異の検出プログラムでは検出できておらず、スプライシングドナーおよびアクセプターの優先度を示す知見として利用できる可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者の所属が変更になり、予定していた臨床検体へのアクセスが難しくなったため、実験計画の変更を余儀なくされた。新設ラボにおける研究環境の整備に時間を要した上、新型コロナウイルス感染症流行により、勤務形態も日々変化しており十分な研究時間を確保できずにいる。また、新型コロナウイルス感染者を対象とした研究の要請もあり、緊急性も高いため、本研究に割くことができるエフォートが限られた。一方で、前所属において一定の成果を上げており、現所属でも、本課題の継続に必要な環境は整備が進められた。以上のことから、進捗状況は「やや遅れている」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに申請者はmRNAseqとWESを組み合わせることでスプライシング異常を引き起こす変異の探索を進めてきているが、一方で、それらが疾患原因変異であるかどうかは判別できておらず、VUS(Variants of Unknown Significance)の域を出ない。今後はその他のVUSを含め、いかに病因でない変異を除外していくかという課題にも取り組む必要があると考えている。バイオインフォマティクスの研究者としては、どこまでwetの実験を使用せず絞り込んでいけるかが挑むべき課題となる。 一方で、2020年度は申請者の所属変更により、遺伝性心疾患の臨床検体へのアクセスが難しい状況となった。しかしながら今後は、がん領域および幅広い遺伝性疾患の検体を提供いただける状況が構築されつつあるため、引き続きそうした症例を対象に、明らかな病原変異が検出されず、mRNAとDNAの両方にアクセスできる症例に関してはスプライシング異常の探索を実施していく。腫瘍関連では、ゲノム解析が非常によく進んでおり、これまでの知見を見る限りはスプライシング異常との関連は薄いが、がん領域では、ロングシーケンスによるトランスクリプトの同定が広く試みられており、異常なトランスクリプトや腫瘍発生に関わるアイソフォームの同定が進んでいる。DNAシーケンスの手法や対象がWESとは異なってくるが、本研究の趣旨と同様の方向性で研究が進められるため、異常トランスクリプトの検出手法として、ロングシーケンスの利用も検討していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
申請者の所属変更に伴い、研究環境の整備と、研究計画の調整に時間がかかった。また、新型コロナウイルス研究の要請もあり、本研究に十分なエフォートを割くことができなかった。以上の理由により十分に予算執行ができず、執行額と執行予定額とのあいだに大幅な乖離が起こり、次年度使用額が生じた。 2020年度中に新所属における研究計画の調整ができたため、2021年度を最終年度として、トランスクリプト解析に必要な試薬、物品、情報解析に必要なソフトウェア等の購入に使用していく計画としている。
|