希少な遺伝性疾患の多くは遺伝子の単一変異を原因としたものであり、その病因特定のためには、全エクソーム解析を含む次世代シーケンサーを用いた網羅的な遺伝子解析が有効である。しかしながら、家族歴のある症例、あるいは若年発症等の遺伝子異常が強く疑われる症例であっても、全エクソーム解析でその原因を特定できる症例は全解析例の50%程度にとどまっている。この原因変異が同定されない症例の中には、一見してアミノ酸変異を引き起こす変異はないものの、コピー数異常や構造異常が起こっているパターンや、イントロンまたはエクソン上の変異が原因でスプライシング異常を引き起こしているパターンが数多く含まれていると想定されている。 本研究の、研究期間の前半では、トランスクリプトーム解析と全エクソーム解析を中心とした遺伝子解析を組み合わせることによりスプライシング異常を引き起こす変異の探索を行い、各症例の病原変異同定、および予測の難しいスプライシング異常の予測プログラムの開発に向けた情報の蓄積を目的として研究を行った。遺伝性循環器疾患患者の内、既知の病原性変異が同定されず、RNA-seqを実施するための生検検体が得られる心移植例を対象に、WESとRNA-seqを実施し、そのリードマッピング結果の比較から複数のスプライシング異常原因変異候補を見出した。 一方、研究期間の後半では、研究機関の異動があったため研究対象が血液腫瘍となり、体細胞変異を中心にWESまたはターゲットDNAシーケンスと、ロングリードRNA-seqを組み合わせた迅速な診断システムの構築を試み、解析例の内20%程度の症例について病原変異の同定が可能となっているほか、解析パイプラインの改善を進め解析日数の大幅な短縮にも成功した。
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