研究課題
心臓は絶え間なく全身に血液を送るポンプであり、個々の心筋細胞は生理的条件、特に病的条件下において大量のエネルギー(ATP)を必要する。これらのエネルギーは主にミトコンドリアにおいて酸素を利用した電子伝達系での酸化的リン酸化によって産出される。本研究の目的は、低酸素応答に着目した上で心血管病におけるその役割を明らかにし、さらにこれらの病態生理に基づきミトコンドリア機能を制御することを介して様々な心血管病の新たな治療法の確立を目指すことである。本年度は、Hif-1α(hypoxia-inducible factor-1α)がミトコンドリア機能および電子伝達系における酸素消費量を積極的に低下させる作用に着目し、Hif-1αの分解を促進するPHD(prolyl hydroxylase domain-containing protein)の阻害剤を用いて、同薬剤が虚血再灌流傷害に対して新たな治療法になることを明らかにした。具体的には、新規PHD阻害剤であるroxadustatを事前投与することによりHif-1αが増加することを確認した上で、Hif-1αを介して積極的にミトコンドリア機能(電子伝達系の消費酸素量)を低下させることで、酸素消費量を低下させ、一方で活性酸素産生を抑制することにより虚血再灌流傷害が著明に抑制されること、また同薬剤を事前に添加しておくことで単離心筋細胞に対して低酸素への暴露により誘導される心筋細胞死が抑制されること、を明らかにした(Deguchi and Ikeda et al. CircJ [in press])。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の進捗状況はおおむね順調である。一昨年度は低酸素応答を介した心破裂の病態生理の解明(論文投稿準備中)、昨年度は低酸素応答に着目した虚血再灌流傷害における新たな治療法の開発に成功している。また並行して慢性心不全における低酸素応答の役割解明についても順調に進んでおり、本年度での研究成果により本研究課題の目的が達成されることが見込まれる。
本研究課題はおおむね順調に進んでおり、これまでと同様に得られた知見に基づき着実に研究を遂行する方針である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
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