研究課題
ブルガダ症候群は日本人をはじめとした一部アジア人に多く、夜間突然死の大きな原因の一つである。しかしこれまで日本人ブルガダ症候群患者を対象としたゲノムワイドな遺伝学研究はなされておらず、なぜ日本人に多いのか、どうやって日本人患者のリスクをゲノムから予知し予防できるのかといった課題は着手されてこなかった。そこで本研究では日本人ブルガダ症候群患者を集積し、ブルガダ症候群が好発する日本人におけるリスク遺伝子座を同定し、そのなかの単一塩基多型(SNP)情報を用いてブルガダ症候群やそれに付随する突然死のリスク予測を行うことを目的とする。今年度は日本人ブルガダ症候群患者のSNPタイピングを終え、既に集積してある日本人健常者のSNPデータと比較したゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い、過去に欧州人で報告された関連遺伝子座(SCN10AとHEY2)が日本人においてもトップヒットであることを確認した。さらに、心機能に関与する遺伝子の近くに見つけた新たなSNPも有力なブルガダ症候群関連遺伝子座として注目しており、現在他人種における再現性を確認中である。これら関連遺伝子座にあるSNPのリスクアリル数をもとにブルガダ症候群のリスクを計算すると、最もリスクアリル数が多い集団は、最も少ない集団の数十倍に上昇することが分かった。このリスク計算についても現在他人種における再現性を確認中である。同様にしてブルガダ症候群患者をイベントの内容で細分化し、致死性イベント経験群と無症候群で比較して、致死性イベントに関連する遺伝子座の候補を見つけている。これについても現在他人種における再現性を確認中であるが、関連遺伝子座にあるSNPのリスクアリル数をもとに突然死のリスクを計算すると、最もリスクアリル数が多い集団は、最も少ない集団の約20倍に上昇することが分かった。
2: おおむね順調に進展している
日本人ブルガダ症候群患者におけるGWASによって、これまで欧州人で見られた遺伝子座がヒットすることは想定の範囲内であったが、新たに関連遺伝子座を見つけられたことは大きな成果で、日本人ブルガダ症候群の罹患リスク予知において重要な役割を果たすことが期待される。また突然死に関連した遺伝子座の同定は、現時点ではサンプル数が少ないためか十分な有意差を示しているわけではないが、リスクアリル間に突然死リスクへの相乗効果があることからも有力な遺伝子座であることが推察される。
ブルガダ症候群関連遺伝子座と、突然死関連遺伝子座の確からしさを高めるためにまず他人種や他コホートで再現性を確認する。さらにこの領域を詳細にシークエンスすることにより、日本人・日本人ブルガダ症候群患者特異的な配列を見出すことで、なぜ日本人にブルガダ症候群が多いのか、なぜ突然死例が多いのかという疑問に答える。さらにその先にブルガダ症候群予防や、ブルガダ症候群に関連した突然死の予防法樹立が期待される。
患者のSNPタイピングに他助成金の研究費を使用した。また対照群については既に集積してあったデータを用いることになり、新たに実験をしてデータを収集する必要が無くなったために次年度使用額が生じた。今後の使用計画として、これまでに確認した意義のあるSNPについて他人種でも効果を確認するための遺伝子タイピング研究が必要になるため、その研究費用にあてる。
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