研究実績の概要 |
心房細動(AF)中の肺静脈(PV)や左房(LA)の興奮は、ランダム(無秩序)か、カオス(一見無秩序だが秩序のある状態)か、この命題に対し複雑系解析手法を用いてAF中の局所電位を解析した。PVIを施行したAF65例(67±10歳、発作性39例)に対し、AF下に各PVとLA前/後壁、左心耳の局所電位を20秒間記録し、自己相関関数(ACF)、フラクタル次元(FD)を算出した。ACFでは、局所電位を時間tだけ徐々にずらし、もとの波形との相似性を評価する。波形に規則性があるとACFも周期性を示し、カオスやランダムであると0へと収束する。FDは整数でなく次元が高値であるほど、カオス性が高いことを示す。 PVI後の誘発で、すぐにAFが停止する群(停止群)と、持続群の2群に分類した。停止群は発作性AFの割合が高かった(76% vs 24%, P=0.005)。停止群の左上下PVでは持続群に比較し、周期的なACFである頻度が高かった(上: 32% vs 10%, P=0.04, 下: 21% vs 0%, P=0.01)。つまりPVIによりAFが根治する群はPVから秩序的興奮がみられ、持続群では見られないことが示唆された。AFのdriverの局在ACFは有用かもしれない。また停止群のLA前・後壁のFDは、持続群より低値であった(前: 2.7±0.3 vs 2.9±0.5, P=0.04, 後: 2.7±0.4 vs 2.9±0.4, P=0.02)。このことからFDによりLAリモデリングの定量評価が可能と考えられる。また、持続群でもPVI前後で、LA本体の周期的なACFに変化した部位も存在し(前壁: 6%→35%, P=0.01, 左心耳: 3%→35%, P=0.003)、PVI後のLAへの追加焼灼の新たな可能性が示唆された。第83回日本循環器学会で口述報告し、現在論文を作成中である。
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