研究課題/領域番号 |
18K15908
|
研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
添田 光太郎 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, 糖尿病研究センター 分子糖尿病医学研究部, 研究員(移行) (20748347)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 心不全 |
研究実績の概要 |
糖尿病患者の死因調査報告によると、冠動脈疾患による死亡は減少しているが、心不全による死亡は減少していない。このことは、糖尿病による心筋代謝障害の病態が存在する可能性を示唆しているが、その病態の詳細は必ずしも明らかでない。 そこで、インスリン分泌低下型糖尿病において筋組織のAktシグナルの低下が糖尿病合併心不全の発症へ関与する可能性を検討するため、筋肉特異的Akt欠損マウス、すなわちMCK-Cre: Akt1/2 floxed(以下mDK(Akt1/2))を作製し、表現型を解析した。 mDK(Akt1/2)は心臓の超音波イメージングでFS(Fractional shortening)の低下と心室壁の菲薄化が認められ、約5週齢で死亡した。心臓は低重量でミトコンドリアDNAコピー数が減少しており、電子顕微鏡ではミトコンドリアの密度の低下とクリステの浮腫、電子密度の低下が顕著に認められた。以上から、mDK(Akt1/2)の心不全発症にはミトコンドリアの異常が関与する可能性が示唆された。 Aktの下流を担うシグナル伝達因子としてはmTORシグナル、FoxOシグナルが知られており、Aktによるリン酸化によってそれぞれの活性を抑制するTSC2、FoxO1/4をCre-loxPシステムを用いて追加で欠損させ、筋肉特異的Akt1/2 TSC2三重欠損マウス(以下mTK(Akt1/2 TSC2))、筋肉特異的Akt1/2 FoxO1/4四重欠損マウス(以下mQK(Akt1/2 FoxO1/4))を作製した。mTK(Akt1/2 TSC2)、mQK(Akt1/2 FoxO1/4)ではともに心臓の超音波イメージングで心臓の収縮機能の改善が認められ、生存期間が有意に延長した。 AktはTSC2とFoxO1/4のそれぞれを介して心不全発症を抑制している可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では筋肉特異的Akt1/2欠損マウス(mDK(Akt1/2))における心不全の表現型が、Aktの下流で制御されるTSC2およびFoxO1/4のレベルで介入することにより改善するかを検討している。 筋肉特異的Akt1/2TSC2欠損マウス(mTK(Akt1/2 TSC2))、筋肉特異的Akt1/2 FoxO1/4欠損マウス(mQK(Akt1/2 FoxO1/4))はともに超音波イメージングで心収縮能の改善が認められ、生存期間が延長した。収縮能と生存期間における改善度はmTK(Akt1/2 TSC2)で特に顕著であり、生存期間は1年以上であった。形態学的にもmTK(Akt1/2 TSC2)は心重量と心筋壁厚が非常によく改善しており、ミトコンドリアDNAコピー数とミトコンドリアの電子顕微鏡臓が非常によく改善した。 そこで、TSC2とFoxO1/4の役割が相加的であるかどうかを検討するため、交配により筋肉特異的Akt1/2 TSC2 FoxO1/4 5重欠損マウス(mPK(Akt1/2 TSC2 FoxO1/4))を得て、現在はその解析を行っている。mPK(Akt1/2 TSC2 FoxO1/4)の生存期間はmDK(Akt1/2)より延長するが、mTK(Akt1/2 TSC2)には大きく及ばないことが明らかになった。mPK(Akt1/2 TSC2 FoxO1/4)の心重量体重比は正常マウスより優位に大きく、Akt-TSC2シグナルとAkt-FoxO1/4シグナルは相加的に心重量に影響を与えることが明らかになった。
|
今後の研究の推進方策 |
現時点では拡張型心筋症に類似した病態を示したmDK(Akt1/2)に対して、Aktで調節されるTSC2とFoxO1/4に対して介入したmPK(Akt1/2 TSC2 FoxO1/4)では肥大型心筋症に類似した病態をきたしている可能性が考えられる。まず、mPK(Akt1/2 TSC2 FoxO1/4)の形態学的観察(心臓超音波イメージング、HE染色など光学顕微鏡像、および電子顕微鏡像)と詳細な遺伝子発現解析を進める。加えて筋肉特異的TSC2 FoxO1/4三重欠損マウス(MCK-Cre; TSC2 FoxO1/4 flox)を準備し、表現型の比較を行う準備をしている。 この動物モデルはmDKで重症心不全をきたすことから、心筋におけるAktの役割を表現型として観察していると考えているが、骨格筋でもAktのノックダウンが起きていることは否定できない。また、比較的早期の週齢で重症の病態を呈することから、成人の病態モデルとして適切かどうかという点で議論がある。これらのことを鑑みて、現在は薬剤誘導型心筋特異的Cre発現マウスとの交配により、心筋特異的Akt1/2欠損マウスなどの作製に取り組んでおり、成人発症の病態を心筋特異的に議論することを目指している。また、ミトコンドリア機能を中心的に単離心筋細胞によるメカニズムの解明を目指し、実験系の構築を進めている。 さらに、STZ投与マウスやDIOマウスといった、心臓におけるAktの活性が低下し心機能が低下する糖尿病モデルマウスでTSC2やFoxO1/4における介入が心機能の保持に有効であるかどうかを検討するため、筋肉特異的TSC2欠損マウスおよび筋肉特異的FoxO1/4欠損マウスを用いてSTZ投与やHFD給餌を行うことを計画している。
|