研究実績の概要 |
糖尿病患者の死因として冠動脈疾患は減少しているが心不全は減少しておらず、糖尿病合併非冠動脈性心不全は糖尿病性心筋症と呼ばれている。当課題では糖尿病モデルマウスと、それらの解析で異常が認められたAktとその下流因子に介入した遺伝子改変マウスを解析することで糖尿病性心筋症の病態解明を目指した。まず、ストレプトゾトシン投与糖尿病マウスでは心筋のリン酸化Aktが低下し、超音波イメージングでFractional shortening(FS)が低下しており、筋組織のAkt活性化不足と心収縮率との関連が疑われた。そこで筋肉特異的Akt1/2ダブル欠損マウス(MCK-Cre; Akt1/2 flox, mDK(Akt1/2))を作製したところ、心筋壁の菲薄化とFSの低下、および心重量とミトコンドリアDNAコピー数の減少が認められ、ミトコンドリアには著明な形態異常が出現した。Aktシグナルの主要な伝達因子としてFoxO転写因子、TSC2-mTORC1シグナルが知られているが、FoxOはAktにより転写活性が抑制され、TSC2はmTORC1シグナルを抑制しているので、Aktに加えて両因子それぞれを欠損させることで特異的シグナルを回復することができる。これらをMCK-Cre; Akt1/2 FoxO1/4 flox(mQK(Akt1/2 FoxO1/4)), MCK-Cre; Akt1/2 TSC2 flox (mTK(Akt1/2 TSC2))として得た。mTK(Akt1/2 TSC2)は心重量、ミトコンドリアDNAコピー数が改善し、mQK(Akt1/2 FoxO1/4)ではミトコンドリアの形態異常が改善し、ともにFSが改善した。両シグナルによる収縮能の制御は心筋特異的薬剤誘導性Cre発現マウスでも再現され、心筋におけるAktは心不全発症に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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