申請者は、これまで遺伝子改変マウスを使用し肺NTM感染マウスモデルを作成、肺NTM症における宿主因子が及ぼす影響の研究を行ってきた。また、申請者が留学中に行った研究では、3D培養したNTM感染ヒト気道上皮に対し網羅的遺伝子発現解析を実施、気道上皮において線毛機能、炎症・免疫反応経路(IL-32、Toll like receptor (TLR)シグナリング)などがNTM感染時に重要な役割を果たしていること、さらにコレステロール合成経路がNTM感染ヒト気道上皮で活性化されていることを世界で初めて見出した。 コレステロール合成経路の活性化と感染症との関係については十分な報告がない一方で、コレステロールは結核菌が細胞内にとりこまれ生存するために重要な役割を果たすことが報告されており、NTMまたは抗酸菌感染時の特異的な反応とも考えられる。また、TLRシグナリング経路の活性化を介して、コレステロール合成経路が活性化されることが報告されているが、NTM感染におけるコレステロールの役割は十分に解明されていない。 こうした背景を踏まえ現在は、野生型マウスに経気道的にM.aviumを感染させ、M. avium感染がTLRシグナル、コレステロール合成経路に及ぼす影響を検証してみた。野生型マウスに経気道的にM.aviumを感染させた感染肺組織において、遺伝子発現の網羅解析を実施した。その結果、肺MAC感染モデルにおける重要な遺伝子群、遺伝子経路を明らかにすることができた。 具体的には野生型マウスにM. aviumを感染させ、2か月後の肺組織を用いてRNA-seqを施行した。この遺伝子発現の網羅解析結果から、TLRシグナルの活性に加えて、Th1、Th17免疫、PD-1経路、Nrf2経路の重要性が明らかになった。この遺伝子発現の網羅解析結果を踏まえ、Nrf2遺伝子欠損マウスにM. aviumを感染させる実験を実施し、マウス肺におけるM. avium感染におけるNrf2の役割を明らかにし、論文として報告した(mBio. 2021; 12: e01947-20.)。
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