現在、肺線維症モデルとして一般的なブレオマイシン肺線維症モデルは、線維化よりも炎症が主体であり、ブレオマイシン投与3~4週目にその肺障害が最大となるものの、その後は自然に軽快していくことが知られており、特発性肺線維症のような慢性進行性間質性肺炎よりも、自然軽快傾向を認め予後が良好な器質化肺炎に近いモデルであることから、慢性進行性間質性肺炎の病態解明や治療法の開発において、その結果が必ずしも応用されないことも経験されている。 マウス・ラット肺移植モデルでは、一般的な肺線維症モデルとして知られるブレオマイシンモデルとは異なり、移植肺において持続炎症に加えて線維化も強く生じるため、ヒト慢性進行性間質性肺炎と同様に多彩な病理組織像を呈し、一部に胸膜直下肺胞領域に肺胞虚脱を伴った帯状線維化を示し、上葉優位型肺線維症に類似した組織像も呈する。 上記のような背景のもとに、本研究ではマウス・ラット肺移植モデルとヒト上葉優位型肺線維症を用い、RNAシーケンスを用いた網羅的発現遺伝子解析や、免疫組織化学を用いた病変局所でのタンパク質発現解析などを実施した。その結果、両者は胸膜直下に肺胞虚脱を伴った帯状線維化を有するものの、背景となる遺伝子やタンパク質発現には相違があり、肺移植モデルに近いと推察される骨髄移植後のヒト上葉優位型肺線維症においても、肺移植モデルとは異なり炎症性の要素は少なく、線維化を促進する因子の発現が多く確認されたことから、上葉優位型肺線維症においても抗線維化薬が効果を有する可能性を示唆する結果となった。 得られた知見をもとに、線維芽細胞の増殖抑制作用を要するα1-アドレナリン受容体拮抗薬の肺線維症モデルにおける治療効果を検証し、論文にて発表した。本研究で得られた発現変動遺伝子群や沈着タンパク質を標的とした新規治療法の開発を今後も進めていく予定である。
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