交感神経の過活動は炎症、発癌および癌の進展と関連する。本研究では、交感神経の過活動と炎症および発癌/癌進展との関連、グレリンが交感神経活性を強力に抑制することに着目し、(1) 交感神経過活動がARDSモデルの肺炎症と肺上皮Pten欠損マウスにおける発癌/癌増殖へ与える影響、(2) 交感神経過活動時の神経型アセチルコリン受容体陽性(α7nAChR陽性)肺胞マクロファージの役割、(3)グレリンの抗交感神経活性を介した抗炎症と癌増殖抑制効果について検討することを目的とする。
2020年度では、ARDSの病態におけるグレリンシグナルの意義を検討するため、グレリン受容体欠損マウスを用いて、肺炎症の程度を検討した。その結果、グレリンシグナルの欠損は炎症病態で重要な役割をもつ分子(MD-2)の発現を調節する可能性が示唆された。グレリンシグナルの欠損により、炎症病態における上記の分子の発現の誘導が変動することを、RT-PCRにより明らかにした。また、マウス腹腔内マクロファージを回収し、野生型マウスとグレリン受容体欠損マウスの間で、LPS添加時のproinflammatory cytokineの発現について比較した結果、グレリン受容体の欠損は炎症を減弱する方向に作用することが明らかになった。これらの結果は、既報で報告されている薬理量のグレリン投与によって得られる炎症抑制効果とは一致しない結果であり、炎症における内因性グレリンシグナルの機能は単純に炎症を抑制するのみではないことを示唆するものである。 交感神経活性と肺癌の予後の関連を検討するため、肺癌治療前の肺癌患者48例の交感神経活性の評価を行った。
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