研究課題
本研究の目的は、肺癌細胞に対して、免疫チェックポイント阻害剤(PD-L1阻害剤)と独自で作出したヒト単球由来iPS細胞から分化誘導した免疫細胞を用いて、PD-L1阻害剤をランドマークとした細胞傷害効果を増強し、抗癌剤の効果が低いとされる癌幹細胞に対する新規治療法を探索することである。2018年度の研究実績として、当研究室で作製したヒト単球由来iPS細胞から単球および樹状細胞(dendritic cell:DC)を分化誘導できる最適なプロトコルを検討し、複数人の血液検体から単球を分離し、安定的にiPS細胞へのリプログラミング、単球、DCへの分化誘導に成功した。分化誘導したDCは抗原提示能力の重要な指標の1つであるMHCクラスII分子であるHLA-DR蛋白質を発現し、抗原として複数のアレルゲンや腫瘍細胞のライセートの添加によりHLA-DRを高発現する細胞が増加した。また、抗原を添加したiPS細胞由来DCと同一人の末梢血リンパ球を共培養したところ、培養上清中のINF-γ量が増加したことから、抗原提示細胞であるiPS由来DCの存在によりリンパ球を活性化させることができた。単球由来iPS細胞からDCへの分化誘導に関する研究成果については現在論文を投稿中である。さらに、複数の肺癌細胞株の中からPD-L1蛋白質を安定的に発現しているA549細胞株を選出し、PD-L1に対するSiRNAの導入を行い、PD-L1と癌幹細胞マーカーであるCD133やCD44の発現変動を確認した。しかし、今回使用したsiRNAだけでは有意にPD-L1発現量を低下させることができず、癌幹細胞マーカーの発現変動も確認することができなかったため、今後さらなる導入条件の検討が必要である。なお、A549細胞株を抗PD-L1抗体を添加した培地で培養し、洗浄後に別の抗体にてPD-L1の発現を確認したところ、発現が低下していた。
2: おおむね順調に進展している
2018年度では、本研究で重要なヒト単球由来iPS細胞から分化誘導する免疫細胞のうち、樹状細胞(DC)への分化誘導に成功し、複数回再現することができた。本iPS細胞由来DCは、抗原提示とリンパ球を活性化させる能力を有しており、今後実施する癌細胞を用いた細胞傷害試験に利用できると考えられる。ヒト単球由来iPS細胞を用いたナイーブリンパ球への分化誘導実験は現在実施している。2020年度に予定していた肺癌細胞株のPD-L1発現に関する検討を先行しており、免疫チェックポイント阻害剤に見立てた抗PD-L1抗体を添加した培地で培養することで、洗浄後に測定したPD-L1蛋白質の発現量が低下していたことから、単球由来iPS細胞から分化誘導した免疫細胞との共培養実験におけるPD-L1阻害剤として利用できると考えられる。肺癌細胞のPD-L1と癌幹細胞マーカーの発現の関係性については現在実験中である。
iPS細胞から免疫細胞を分化誘導し、肺癌細胞に対する細胞傷害試験プロトコルの確立とPD-L1、癌幹細胞との関係性を探索していく中で、再現実験を複数回行い、確実に進捗することが重要である。現在実施している、分化誘導実験(単球由来iPS細胞から樹状細胞およびナイーブリンパ球への分化誘導)についても、培養液や成長因子、阻害剤などのバランスを調整して、より短い期間で効率的に分化誘導できるプロトコルを検証していく。分化誘導した免疫細胞を用いて、肺癌細胞株に対する細胞傷害試験をin vitroと動物実験の両方で検討する。また、並行して肺癌細胞のPD-L1と癌幹細胞マーカーの発現の関係性について検証し、単球由来iPS細胞から分化誘導した免疫細胞との共培養実験による細胞傷害性の差異を確認する。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件)
Cellular Reprogramming
巻: 20 ページ: 347-355
10.1089/cell.2018.0024
藤田学園医学会誌
巻: 42 ページ: 25-30