研究課題/領域番号 |
18K15935
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研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
平松 範子 藤田医科大学, 共同利用研究設備サポートセンター, 技術員 (10802209)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 単球 / iPS細胞 / 樹状細胞 / マクロファージ / 抗原提示細胞 / 肺癌 / PD-L1 / 初代肺癌細胞株 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、肺癌細胞に対して、独自で作出したヒト単球由来iPS細胞から分化誘導した免疫細胞を用いて、PD-L1阻害剤をランドマークとした細胞傷害効果を増強し、癌幹細胞に対する新規治療法を探索することである。 2019年度は、分化誘導実験(ヒト単球由来iPS細胞から樹状細胞およびナイーブリンパ球への分化誘導)について、培養液や成長因子、阻害剤などを調整して、より効率的に誘導できるプロトコルを検証した。樹状細胞への分化誘導については、成長因子の濃度や培地交換日を調整することで、抗原提示能力の指標の1つであるHLA-DR蛋白質を発現する細胞を安定的に誘導することができた。しかし、ディフ・クイック染色標本を観察したところ、突起を伸ばす樹状様細胞に加えて細胞質内に多数の空胞を有する細胞が多くみられた。そこで、リンパ球へ腫瘍抗原情報を伝達する手段として、樹状細胞の代わりにマクロファージを用いる方法も考慮し、iPS細胞からマクロファージを誘導するプロトコルを検証し、CD11c、CD169(Siglec1)蛋白質を発現するマクロファージ様細胞を分化誘導することに成功した。iPS細胞からリンパ球への分化誘導については、フィーダーフリーでの誘導方法を検証し、CD45、CD4蛋白質を発現する細胞を誘導することができたが、細胞傷害性T細胞への誘導方法は、今後さらなる検討が必要である。 また、複数の肺癌細胞株を用いて、iPS細胞由来免疫細胞を用いた細胞傷害効果とPD-L1やCD44、CD133など癌幹細胞マーカー蛋白質発現との関係性を検証するために、2019年度より、実際に肺癌患者から採取した生検組織および手術臓器を初代培養して肺癌細胞株の確立と解析を実施している(本学倫理審査委員会承認済み)。5例以上の肺癌細胞株を樹立し、PD-L1蛋白質の発現などに個人差があることを確認している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は、ヒト単球由来iPS細胞から分化誘導した免疫細胞を用いて、肺癌細胞に対する細胞傷害試験プロトコルの確立とPD-L1、癌幹細胞との関係性を探索していく中で、再現実験を複数回行い確実に進捗することを計画していたが、主に免疫細胞(樹状細胞、リンパ球)の最適な分化誘導プロトコルの検証に遅れが生じた。本学内における自身の所属・組織変更などにより、研究を実施する十分な環境と時間が確保できない期間が生じた理由もあり、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画では、2020年度はヒト単球由来iPS細胞から分化誘導した免疫細胞(抗原提示細胞、リンパ球)と、indocyanine green(ICG)やfluoresceinなどで標識したPD-L1阻害剤(抗PD-L1抗体)を用いて、特異的に抗原を認識する細胞傷害性T細胞を作出し、PD-L1陽性の肺癌細胞に対して細胞傷害性を示すかどうかをin vitroおよびin vivoで検討する。また、「PD-L1の低発現が癌幹細胞の誘導につながる」という仮説を立て、PD-L1低発現肺癌細胞に対する細胞傷害性を検討することで、癌幹細胞に対する新規治療法を探索する基礎検討を行う予定である。2019年度の研究結果から、今年度はiPS細胞由来の抗原提示細胞として樹状細胞よりも分化効率が良く、細胞質内に多数の空胞を有するマクロファージ様細胞を用いたプロトコルに変更する。さらに研究に用いる肺癌細胞は、本学の臨床検体から樹立した細胞株の中から、PD-L1の発現量が異なる複数の細胞を用いて検証を行うことを計画している。また、本研究で使用している単球由来iPS細胞は、既報論文で使用されている皮膚由来/血液細胞由来iPS細胞とは由来とクローンが異なるため、クローンの違いによる分化誘導効率への影響について市販のiPS細胞を用いた検証を実施することで、より客観性のある結果を得られると考えている。
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