当研究室で考案した方法にて複数人の末梢血単球よりヒト単球由来iPS細胞を作製し、そのiPS細胞から単球および樹状細胞(dendritic cell:DC)に分化誘導した。分化したDCは抗原提示能力の指標の1つであるHLA-DR蛋白質を発現し、複数種のアレルゲンや腫瘍細胞のライセートを添加することでHLA-DRを高発現する細胞が増加した。そこに同一人の末梢血リンパ球を共培養すると培養上清のINF-γ量が増加したことから、iPS由来DCの存在によりリンパ球が活性化されることが示唆された。一方、分化誘導プロトコルの検討中において、樹状細胞に加えて細胞質内に多数の空胞を有するマクロファージ様細胞が多く観察される条件も見出した。この細胞ではCD11c、CD169(Siglec1)蛋白質を発現していた。 一方、複数の肺癌細胞株の中からPD-L1蛋白質を安定的に発現しているA549細胞株を選出し、PD-L1に対するsiRNAの導入を行ったところ、PD-L1と癌幹細胞マーカーであるCD133やCD44の発現変動を確認した。次に臨床の非小細胞肺癌患者の肺生検組織および手術臓器を用いて癌細胞の初代培養に成功した。そこで増殖能が高い臨床分離細胞株を用いて、フローサイトメトリーなどによるタンパク質発現解析を実施し、EpCAM、TROP2や癌幹細胞マーカーの1つであるCD44が高発現していることを確認した。これらの肺癌細胞においてPD-L1蛋白質の発現は低かったが、INF-γを添加することによりPD-L1の発現が増加する傾向が観察された。 以上より、リンパ球のINF-γ分泌を促すことが確認されたヒト単球由来iPS細胞から誘導した抗原提示細胞との共存およびサイトカイン療法との併用は、肺癌細胞のPD-L1発現を高めることが推測され、結果としてPD-L1阻害剤の薬効向上につながる可能性が示唆された。
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