喘息は本邦では約1000万人が罹患している国民病である。既存の治療薬に抵抗性である重症喘息は成人喘息の50-100万人であり、頻回の増悪、ステロイド治療による副作用のため生活の質が著しく損なわれる。さらに、重症喘息に係る医療費は喘息全体の60%を超えるとされ、重症喘息を標的にした新規治療法開発が急務である。本課題では「重症喘息ではどのような分子基盤で気道炎症が遷延するのか」を核心的問いとし、重症喘息における気道炎症制御機構を標的とした新規治療戦略開発を目指す。 特に、本研究では死細胞認識分子として知られるAxl受容体チロシンキナーゼに着目して研究を行っている。 令和元年度は、ヒト気道粘膜生検組織におけるAxl受容体の発現について定量的画像解析を行った。その結果、重症喘息症例では、非喘息症例や軽症・中等症喘息症例と比較し、Axl蛋白発現の有意な低下が認められた。このAxlの発現低下は気道に浸潤している喘息のエフェクター細胞である好酸球やマスト細胞と有意な負の相関を示すことが分かった。 Axlによる好酸球性炎症抑制効果を検証するため、気道上皮細胞株であるBeas2B細胞を用いて炎症性サイトカインおよびケモカインの遺伝子発現解析を行った。その結果、ハウスダストダニ抗原曝露下でAxlは、GM-CSFやRANTESといった好酸球活性化・走化性に関与する遺伝子および蛋白発現を抑制していることが分かった。 以上の結果は、重症喘息におけるAxlの発現低下は、抗原曝露による好酸球性炎症の増悪・遷延に関わる可能性を示唆するデータである。
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