研究課題/領域番号 |
18K15944
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
須田 理香 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任助教 (90779795)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | テロメア短縮 / CTEPH血管リモデリング |
研究実績の概要 |
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(以下CTEPH)では器質化血栓による血管閉塞に加え、肺動脈内の細胞増殖によりリモデリングが起こる。根治術である肺動脈内膜摘除術に加え、肺血管拡張薬による内科治療も進歩したが、依然治療抵抗例が存在する。治療抵抗例の主病態は肺動脈のリモデリングと考えられており、血管リモデリングを標的とした新規治療の開発が国際的に望まれている 。本研究は、CTEPH治療抵抗性の主病態である肺動脈リモデリングの細胞増殖を下記2点に着目して解明することにより、未だ確立されていないリモデリング抑制をターゲットとした治療法の開発へ臨床応用し、治療抵抗例の予後改善を目指すものである。 COPDに伴う肺高血圧症では、末梢血のテロメア短縮と肺動脈リモデリングの重症度の相関や、老化細胞からの増殖因子様物質が報告されている。そこでCTEPH患者の末梢血 のDNAのテロメア長を測定し、テロメア長と患者臨床情報とを比較検討した。 末梢血のテロメア短縮とCTEPHの血行動態の重症度には有意な相関は認められず、肺高血圧症を伴わないCTED症例とCTEPHとの比較でもテロメア長に差は認めなかった。この結果からは、CTEPHにおいてはCOPD-PHで報告された肺動脈リモデリング とテロメア短縮や、老化細胞からの増殖因子様物質とは関連ないことが推測された。 一方、肺動脈内膜摘除術により摘出された肺動脈内膜と器質化血栓を含む検体から単離した血管内皮細胞の増殖能が高いことに反して、間葉系細胞は細胞増殖能が著明に低下していたことから、血管内皮細胞との相互作用により細胞増殖が起きていることが推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
末梢血のテロメア短縮とCTEPHの血行動態の重症度については関連がないことが判明した。これまでの実験から、肺動脈内膜摘除術により摘出された肺動脈内膜と器質化血栓を含む検体から単離した血管内皮細胞の増殖能が高いことに反して、間葉系細胞は細胞増殖能が著明に低下していたことから、血管内皮細胞との相互作用により細胞増殖が起きていることが推察される。また、PAHのリモデリング血管の平滑筋細胞で、テロメラーゼ活性の上昇が報告されている。これらの結果を元に、今後肺動脈内膜摘除術により摘出された肺動脈内膜と器質化血栓を含む検体から得られた増殖細胞を用いて、細胞増殖における血管内皮細胞の細胞間相互作用の解明、細胞増殖におけるテロメラーゼ、テロメラーゼ活性の検討に主眼をおいて検討を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、細胞増殖における血管内皮細胞の細胞間相互作用の解明を行う。具体的には、肺動脈内膜摘除術により摘出された肺動脈内膜と器質化血栓を含む検体を細胞分散し、磁気ビーズを用いて単離培養した肺血管内皮細胞(PVECs)と単離した間葉系細胞、正常ヒト肺動脈平 滑筋細胞、正常ヒトPVECsを共培養し、細胞の増殖能の変化、形質の変化を検討し、網羅的な遺伝子解析等から増殖シグナルを解明する。次に、単離 PVECsの培養液を回収し、正常ヒトPVECs、正常ヒト肺動脈平滑筋細胞に添加し、増殖能の変化を検討する。更に培養液の増殖因子の解析と阻害実験による増殖因子の同定をする。 平成32年度は、細胞増殖能の高いPVECs におけるテロメラーゼ、テロメラーゼ活性を検討する。ウィルスを用いてPVECsにテロメラーゼ遺伝子を強制発現させ、細胞増殖への影響を評価し、テロメラーゼ阻害薬Imetelstat や、テロメラーゼ構成要素TERTの阻害作用を持つアジドチミジンを用いた阻害実験を行う。また、得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
末梢血のDNAを用いたテロメア長の検討を先行させて行ったため、細胞分散、細胞培養にかかる費用等があまりかかっておらず、繰越金が発生した。今後細胞分散、細胞培養等の実験がメインとなるため、今年度の繰越金を使用する予定である。
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